「子宮筋腫」を知っていますか? 実は、大人の女性の4人に1人くらいに見つかると言われるとても身近な病気です。悪性のがんとは異なる子宮筋腫ですが、場合によっては月経(生理)が重くなったり不妊症につながることもあります。
今回は子宮筋腫について、月経や他の病気との関わり、もし診断を受けた場合の治療の方法などを産婦人科医の柴田綾子先生にお聞きしました。


産婦人科医 柴田綾子先生

2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信を行っている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。

子宮筋腫とは

ーーそもそも子宮筋腫とはどういったものでしょうか?

子宮はそもそも筋肉でできているのですが、その筋肉が増殖してできたこぶを子宮筋腫といいます。

子宮筋腫は女性なら3、4割がもっているもので、良性疾患といってそれ自体が悪いものではなく、生命を脅かすものではありません。ありふれた病気である一方で、こぶができる原因はあまりよく分かっていません。

ただ、エストロゲンという女性ホルモンによって大きくなりやすいので、エストロゲンが活発な30、40代の時に大きくなることがあります。年齢を重ねるにつれ、筋腫が大きくなることがありますが、閉経すると少し小さくなることが多いです。

位置や大きさや数によっては、生理痛や生理の量が増えたり、不妊症の原因になったりという症状が出ます。

自覚症状が少ない場合も多く、超音波検査やMRI検査で診断します。

ーー子宮筋腫はエストロゲンで大きくなりやすいということですが、低用量ピルで子宮筋腫が大きくなることはあるのでしょうか?

研究はされているのですが、低用量ピルで「大きくなる」という意見もあるし「そんなに変わらない」という意見もあります。

低用量ピルを飲むと生理痛や生理の量が減るので、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症があって生理で困っている方も低用量ピルを使うことはできます。

ーー「よくある子宮筋腫の数や大きさ」の目安はありますか?

2、3cmぐらいの大きさの筋腫は、ほぼ皆もっていて、その数が1、2個なら、症状がないことが多いです。子宮筋腫は、小さくて症状がなければ特に治療の必要はありません。

子宮筋腫の大きさが5、6cmを超えてくると症状が出るケースが増えます。たとえば生理痛がひどいとか、生理の量が多いといった場合は、手術やホルモン治療のご相談になることが多いですね。大きさに加えてどこに筋腫ができているかにもよって症状の出方も変わりますが、貧血や頻尿、便秘、腰痛などの原因になることもあります。子宮筋腫がある人は、婦人科で定期的な検診をして経過観察をします。
そして子宮筋腫は不妊の原因になることもあります。

ーー子宮筋腫が不妊症の原因になることもあるのですね。

はい、子宮筋腫が原因で不妊や流産を繰り返すこともあります。大きくない筋腫でも、子宮の内膜などにできた場合は不妊症につながるケースもあります。妊娠しづらくお困りの場合は、1cmの小さい子宮筋腫でも子宮鏡などで取ることがあります。

治療の選択肢

ーー子宮筋腫の治療は、どのようなものがあるのか教えてください。

まず子宮筋腫そのものではなく「子宮筋腫から引き起こされる症状」を治す、対症療法という方法があります。たとえば痛み止め漢方薬低用量ピル等を使って、子宮筋腫による生理痛や生理の量が多いという症状を治します。低用量ピルを服用すると出血量も減るので、貧血の改善にもつながります。

漢方や低用量ピルを服用する場合、保険適用で1ヶ月にかかる費用は2000円ぐらいになります。

低用量ピルは体調が大丈夫であれば、長い期間服用いただいても安全です。

症状が強い場合は、筋腫を大きくするといわれるエストロゲンの分泌を抑え、筋腫の成長を止めるホルモン療法を行います。「偽閉経療法」といって閉経を人工的に起こす薬を使います。この薬は、脳から卵巣に出ている「女性ホルモンを出す」という命令を人工的に元からブロックして生理を止めます。エストロゲンの量を下げて一時的に閉経の状態をつくり、子宮筋腫を小さくする効果が期待できます。

鼻からスプレーをするタイプや注射、飲み薬の種類があります。
「GnRHアゴニスト」や「アンタゴニスト」というのですが、リュープリンやレルミナ、スプレキュアと呼ばれている薬ですね。ホルモン療法は、低用量ピルと併用はできないので、どちらかを選んで使います。

ただ閉経の状態をずっと続けると更年期のような症状が出たり、骨粗鬆症のリスクが高まったりします。そのため、この偽閉経療法は6カ月間までしか使えません。その後は手術をしたり、低用量ピルを使用したり、対症療法を行うという選択になります。

子宮筋腫の薬物療法

治療法内容
対症療法痛み止め・漢方薬・低用量ピル等で、子宮筋腫から引き起こされる症状を治す
偽閉経療法ホルモン薬(鼻へのスプレー薬、注射、飲み薬)で、エストロゲンの量を抑えて一時的に閉経の状態をつくり、子宮筋腫を小さくする※6ヵ月まで

子宮摘出を悩むときは?

ーー手術などの治療について教えてください。

筋腫が大きく、薬の治療を行っても改善が見られない場合や、筋腫によって不妊への影響が考えられる場合、手術を考えます。具体的には手術の方法は2つあります。1つは子宮筋腫だけを取る「子宮筋腫核出術」です。将来、妊娠を考えている方や子宮を残したいという希望がある方におこないます。

ただし子宮に小さな筋腫が残っていたらまたそこから筋腫が出てくるので、今ある子宮筋腫だけを取っても将来再発するリスクがあります。
子宮筋腫が絶対に再発しない方法としては、子宮を全摘出する方法もあります。今後妊娠・出産を希望しない場合や、たくさん筋腫があって取り除くことが困難な場合に適しています。筋腫の大きさによっては体への負担の少ない腹腔鏡での手術も可能です。

ただ、手術が怖いという方もいらっしゃると思います。全身麻酔のことや、お腹に傷ができる手術のため希望されない方もいます。そういう方の場合は「子宮動脈塞栓術」という方法があります。特定の産婦人科でやっているのですが、足のつけね(鼠蹊部)の太い血管からカテーテルを入れる方法で、お腹に傷ができません。
子宮に栄養を送っているメインの太い血管にゼラチンを入れて塞ぎます。すると子宮の細胞が壊死して機能しなくなり、筋腫や子宮が小さくなります。ただ子宮や筋腫が完全になくなるわけではないので、将来再発の可能性もあります。

ほかに、子宮筋腫だけに超音波を当てて小さくする「FUS(MRIガイド下集束超音波治療)」という方法もあります。MRIで病巣を撮影しながら、超音波のエネルギーを集中させて、子宮筋腫の細胞を壊死させる治療です。こちらは保険適用がなく自費になります。

子宮動脈塞栓術やFUSの副作用として、細胞が壊死していく過程でお腹が痛くなったり、熱が一時的に出ることが少しあります。また、これらは妊娠していない、将来妊娠を希望しない方向けの方法となります。

子宮筋腫の手術療法

治療法内容妊娠を望む人向け腹部を傷つけない再発リスク
子宮筋腫核出術子宮筋腫を取る手術 
子宮全摘出手術子宮を全摘出する   
子宮動脈塞栓術子宮に栄養を送っている血管を塞ぎ、細胞を壊死させる 
FUS(MRIガイド下集束超音波治療)子宮筋腫に超音波を当てて、子宮筋腫の細胞を壊死させる

ーー子宮を摘出したり壊死させたりすると、体にどのような影響がありますか?

女性ホルモンは子宮からではなく卵巣から出ているので、両方の卵巣を摘出しなければ女性ホルモンには大きく影響しません。なので、女性ホルモンが出なくなったり、バランスが狂ったりすることは少ないと思います。子宮を摘出すると、一時的に少し調子が悪くなることはあるのですが、更年期障害になったり閉経したりすることはないですね。

子宮全摘術をおこなうと、排卵はしていても生理は来なくなり妊娠もしなくなります。手術直後でなく長期的な体の変化としては、便通が変わることはあります。便通がよくなったり、逆に少し便が出にくいと感じる方がいますね。
膀胱の位置も変わったりするので、排尿の状態も少し変わる方もいらっしゃいます。腟はそのままあるので、性行為には特に問題ないと思います。


子宮筋腫は必ず治療しなければならないものではありませんが、治療する場合にはさまざまな方法があります。
生理や妊娠とも関わってくる場合があるので、よく検討したうえで子宮筋腫と付き合っていってほしいと思います。

〇ライタープロフィール

きのコ

群馬を中心に多拠点生活をする文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療や子宮筋腫による月経困難症をきっかけに、生理との向き合い方に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。

この記事を書いた人

ツキとナミ運営事務局

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