産前・産後のデリケートゾーンのケアの本当のこと

出産は女性の体にさまざまな変化をもたらします。
特にデリケートゾーンに関しては、妊娠中から産後にかけて特有の悩みが発生します。例えばむくみやおりものの増加、出産後の悪露や会陰切開の痛みなど、どれも日々の生活に影響を及ぼすものばかりです。
今回は、産婦人科医の柴田綾子先生からのアドバイスをもとに、妊娠中から産後にかけてのデリケートゾーンの変化や、具体的なケア方法について詳しく解説します。


産婦人科医 柴田綾子先生

2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信をおこなっている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。

出産の前後のデリケートゾーンの変化

ーー産前産後のデリケートゾーンのケアについてお聞きしたいと思います。まず、出産の前後でデリケートゾーンがどのように変化するのか、教えていただけますでしょうか。

出産の前は子宮が重くなるので、会陰がむくみやすくなります。また、妊娠中のデリケートゾーンは便秘やむくみ、静脈瘤が原因で腫れることがありますね。
そして、妊娠中は免疫の変化でカンジダに感染しやすくなります。女性ホルモンが増えて、おりものが多くなるのも特徴です。

ーー妊娠中の体調変化は大変ですね。産後のデリケートゾーンについてはいかがでしょうか?

産後は「悪露」という重い生理のような出血が続きます。匂いや不快感が気になったりして、心地よく過ごしにくいと感じたりする方も多い時期ですね。
さらに、会陰切開をした場合は痛みやこすれによる違和感等のトラブルの可能性もあります。

ーー悪露は出産後すぐに終わるものではなく、長期間続くんですね。

そうですね。2~3週間は続きますし、長い人では1ヶ月くらい出血が続くこともあります。

産前の会陰マッサージなどのケアの選択肢

ーー産前には「会陰マッサージ」などのケアをよく耳にしますが、妊娠中や産後でどのようなデリケートゾーンのケアの方法があるのか、教えていただけますか?

妊娠中はおりものが増えるので、多くの方がおりものシートを使用しています。ただ、むくみやすいこともあり、シートで肌が荒れたり、かゆみが出たりすることもあります。

会陰マッサージについてですが、初産の方がおこなうと会陰裂傷の予防になる可能性はあります。ただし、絶対に裂傷を防げるというわけではないので、特に強くおすすめはしていません。余裕があればおこなっていただけたらと思います。
まずは、おりものシートをこまめに取り替えることや、かゆみが出た場合は産婦人科で塗り薬や腟薬を処方してもらうことが一般的なケアになります。

ーーなるほど。おりもの自体が増えるのを防ぐのは難しいということですね。

そうですね。妊娠中は女性ホルモンの影響でおりものが増えるため、それを減らすのは難しいです。対症療法的ですが、おりものシートを使う、こまめに拭く、長時間放置しないといったケアをすることが重要になります。
それに加えて、通気性の良いショーツを使う、蒸れないようにすることも大切です。

産後の腟の緩みのケア、どんなものがある?

ーーそれでは、産後のケアについても伺います。
産後に腟が緩むとよく聞きますが、ケアの方法はありますか?

産後は「腟が緩む」というよりも、骨盤底筋という骨盤の底を支える筋肉が緩む形になります。これは、自然分娩の方だけでなく帝王切開の方でも同じです。
産後は尿漏れが起こりやすく、生活に支障が出る場合も多いので、骨盤底筋を鍛える「骨盤底筋体操」をおすすめしていますね。骨盤底筋が緩むと、尿漏れなどの症状が出やすくなるため、体操で鍛えることが大切です。

たとえば、こちらのWebサイトなどでもやり方を見ることができます。
▼骨盤底筋体操(2&4体操)特設サイト(東京大学医学部附属病院 女性骨盤センター)
※外部サイトへのリンクです。
https://www.gynecology-htu.jp/pfmexc/

ーー骨盤底筋は、出産によって緩まないようにすることは難しいのでしょうか?

難しいです。これは女性の体の解剖学的な特性によるものです。
妊娠・出産していない方でも、高齢になると筋肉が弱くなり、骨盤底筋が緩んできます。たとえアスリートであっても、どんな女性でも年齢を重ねると同様の問題が起こり得ます。

ーーそうなのですね。ちなみに、専用のボールを腟に入れるなど、器具を使ったいわゆる「腟トレ」は、骨盤底筋を鍛える効果が期待できるのでしょうか?

そうですね。そういった腟に入れるタイプの器具を使ったグループと使わなかったグループを比較する研究があり、前者の方が運動の効果をフィードバックする方法が効果的だった、という調査もあります。
ただし、効果はあるかもしれないけれど、絶対的なものではないとして、強く推奨されてはいません。

骨盤矯正の効果はある?

ーー骨盤底筋体操の話がありましたが、「骨盤矯正」という言葉もよく聞きます。マッサージや整体などは、実際に効果はあるのでしょうか?

骨盤矯正については、実は科学的なエビデンスがあまりありません。
というのも、骨盤は自然に元に戻ることが多いんです。無理に矯正する必要はなく、放っておいても産後に時間が経つにつれて自然に治っていくことがほとんどです。マッサージや整体で劇的に改善するという保証もないですね。

ただし、骨盤ベルトや補正用のガーターなどは、ご本人が苦にならなければ使っていただいて問題ありません。また、ストレッチや軽い運動、マッサージなど、産後の運動は痛みがなければしていただいて全く問題ありません。

ーー無理せず時間をかけていくのが大切ということですね。

産後のケアの選択肢やおすすめの過ごし方

ーー産後のケアについて、おすすめの過ごし方や方法はありますか?

産後は授乳の姿勢をとるとどうしても肩や首、手首に負担がかかりますね。抱っこや抱き上げる動作も含め、これらの部位に負担がかかりやすいです。
ですので、肩や首回りのストレッチや運動はぜひ取り入れていただきたいですね。授乳やミルクをあげることに集中しすぎていると、知らない間に頭痛の原因になっていることもあります。
また、授乳の際は無理な姿勢を取りがちです。授乳クッションを使うことで、赤ちゃんを抱き上げる負担を減らし、無理のない姿勢を作ることがとても重要です。

また、長時間座ることが多くなるので、ドーナツ型の「会陰クッション」を使っている方が多いです。このクッションを使うことで、会陰部分が直接床に触れず、圧迫を防ぐことができます。圧迫は痛みの原因になりやすいので、こうしたドーナツ型のクッションはおすすめですね。

産後は便秘にもなりやすいのですが、そういった場合は、便秘の薬を使っていただいても大丈夫ですよ。


妊娠・出産による体の変化は、女性にとって大きな影響をもつものです。しかし、適切なケアを取り入れることで、デリケートゾーンや骨盤底筋の健康を守り、毎日を過ごしやすくすることが可能です。
おりものの量に応じて、おりものシートやショーツを使ったり骨盤底筋体操を生活のすき間時間に行うことで、尿漏れやデリケートゾーンのケアができます。
また、症状が続くときや改善しないときは産婦人科で専門のサポートを受けましょう。出産後の体調を整えることは、自分自身の健康を守るだけでなく、赤ちゃんとの生活をより快適にするための重要な一歩です。

〇ライタープロフィール
きのコ
東京を中心に多拠点生活する物書き。マッチングサイト会社の広報。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療の経験や、子宮筋腫による月経困難症からの子宮全摘出をきっかけに、女性の身体と健康に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。

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ツキとナミ運営事務局

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