「産後の夫婦生活に関する意識のズレの原因はホルモンバランスの変化だとよく言われますが、それよりも男性による家事育児の非協力度のほうが重大な影響を及ぼしているのではないかと思います」と語るのは、ラブライフアドバイザーのOliviAさん。えっ!家事や育児をどれだけやったかと産後の夫婦生活がつながっているの!?と思った方もいるかもしれませんね。夫婦で一緒にこの記事を読んで、産後の悩みを克服するために、OliviAさん、詳しく教えてください!
監修・話題提供
OliviA(オリビア )/ラブライフアドバイザー
大学時代からセクシュアリティの調査を始め、2007年より女性・カップルに性生活の総合アドバイスを行う。日本と台湾で著書出版。日本の性の専門家として「VOGUE JAPAN」でも紹介される。フェムテック・セクシュアルウェルネス・セクシュアルプレジャーが専門分野。近著「セックスが本当に気持ち良くなるLOVEもみ」(日本文芸社)他。日本性科学会会員。
産後のセックスレスは男性側の家事育児へのコミット次第
ーー産後の夫婦生活のお悩みでよくあるケースはありますか?
お悩み相談で多いのが、「子どもの年齢+1年」でのセックスレスというケースです。妊娠が分かってからセックスを控えて、そのまま産後にセックスレスになって、子どもは成長していくけれど、セックスは再開していない、という状態です。
恋人から夫婦になり、そこから家族になっていくと、パートナーとの関係性が「性的なパートナー」というより「子どもを一緒に育てていくライフパートナー」のようになり、性的な対象とは違う新たな関係性の存在に感じられたりします。
それに加えて、ホルモンバランスの乱高下があると、性欲・セックスどころではないという状況になる方もいます。
ーーそのような状況に陥ってしまう原因にはどのようなことがあるのでしょうか?
産後のセックスレスの原因を挙げるとしたら、私は、①家事育児への男性の非協力度、②女性側のボディイメージの低下、というふたつを挙げます。
産後のセックスレスの原因として、産前産後での女性のホルモンバランスの変化を一番に挙げられることが多いですが、実は男性側の家事育児の非協力度に女性側が落胆して、パートナー男性を見限ってしまうのもよくあるケースです。
その背景として、子どもが生まれると、男性と女性で努力のベクトルが異なってくることがあるように思います。男性は外で働いて経済的に家族を養う方向に努力のベクトルが向く一方、女性は身体的に子どもを育む方向にベクトルが向きやすく、それぞれの努力のベクトルの違いが夫婦生活にも影響していると感じられます。
男性の当事者性を引き出して、「育児はふたりの仕事」という共通認識を作る
ーー男性の家事育児への非協力度が産後のセックスレスにも影響しているということですが、詳しく教えていただけますか?
「夫も家事育児に協力している」という言い方は違うよね、という考え方がまだまだ浸透しておらず、「家事は女性がするもの。男性は手伝う存在」と思っている方が多いです。
「二人で養育している」という男性の当事者性をもっとはっきり意識してほしいと思いますが、男性には妊娠期に身体の変化が無いことも、当事者性を持ちにくい背景として考えられます。
ーー男性はどうしたら自分事として捉えられるようになるでしょうか?
女性が、妊娠中から「自分の身体は今こういう状態」ということを折に触れて分かりやすく伝えていくと効果的です。たとえば「つわりは、ずっと船酔いが続いている感じ。仕事の間もずっと船酔いしている感じなんだよ」「授乳で睡眠が取れないのは、ずっと徹夜続きと同じ状態なんだよ」など、男性が自分の身に起こったこととして想像できるような表現で繰り返し伝えると、当事者性を引き出していけるのではないかと思います。
「育児は私(女性側)の仕事」と我慢してしまう方や、「産休を取っていて自分はいま仕事もしていないから、家事育児は自分でやらなきゃ」と思ってしまう女性も多いのですが、『ふたりの仕事・ふたりのライフワーク』という共通認識を作り上げることからセックス再開への道が始まります。
ーーこういったお話を紹介すると、「男性の労働時間の関係で、家事や育児を担うのが難しい場合もあると思いますが、そういう場合はどうすればいいでしょうか?」という質問をいただくこともあります
そういった時には、子どものことではなく、パートナーのことを気遣ってほしいと思います。顔を合わせる時間が無ければ、LINEでもいいです。「今日、子どもどうだった?」という子どもを介在した会話になりがちですが、パートナーである妻自身のことを「今日どうだった?」と聞いてもらえると、セックスレスの解消への第一歩になると思います。
ボディイメージの低下は「今あるいいところ」に着目して克服する
ーー産後のセックスレスの原因に「女性側のボディイメージの低下」も挙げていただいていたかと思いますが、それについても教えてください
これは、産後の身体の変化で女性側の自信が無くなってしまうというものです。
産前産後の身体の変化は、出産方法によっても変わるのですが、帝王切開なら下腹部に傷が残りますし、経腟分娩だと裂傷で外陰部が引き締まっているのか緩んでいるのか自分で分からなくなったり、尿漏れも続いたりします。デリケートゾーン周りの感覚が出産前と異なってしまい、感覚が分からなくなる人もいます。また逆に、腟の中が熟した感じで感度がよくなったという人もいたりして、セックスの感じ方が劇的に変わる人もいます。
ひとりひとり変化の仕方は違いますが、出産のダメージは、段々と回復していきます。産後にセックスを再開した時に、「昔と変わって感じなくなった」と思ってもこれからもずっとそうであるとは限りません。
ーーそういった事情はあるとしても、ボディイメージ、つまり自分自身のからだへのイメージをポジティブに捉えられないと自信を回復することは難しいと思います。何か自信を回復するための方法はあるでしょうか?
ミラーワークというのをお勧めしています。鏡に自分の姿を写して、自分の素敵だな、魅力だなという部分を見つけて褒めていくワークです。ボディイメージの低下に悩む人は、劣ってしまった場所に目が行きがちですが、魅力的な部分を褒めることを繰り返していくうちに、ポジティブになれるといわれています。妊娠線も考え方によっては「赤ちゃんを授かった証」とポジティブに捉えることもできます。ボディイメージの変化は、自分がその変化を肯定できるかでだいぶ変わってきます。
ーー産前産後の女性のボディの変化でセックスに前向きになれない男性もいらっしゃると聞いたことがありますが、そういった男性へのアドバイスはありますか?
同じように、パートナーの変化してしまった部分に着目するのではなく、パートナーの今の素敵なところを見つけていくようにするといいと思います。例えば性器の形状の変化に目が向く方が多いですが、「抱き合っていると肌がとても気持ちいい」など、変わってしまった所ではなく、パートナーの今ある魅力を再発見して相手に伝えていくことで克服できると思います。
女性が一人で過ごせる時間を確保する
ーー共働きをしながら子育てしている夫婦も多いですね
子どもがいる夫婦で、お互いが仕事をしていても、育児は妻が中心で、子育てのモードからの切り替えが難しいと思ったり、また夫の方も仕事をしながら妻と同じくらい育児をこなす難しさを感じられている方も多いのではないでしょうか。
産後の女性はママとしての役割の比重が大きくなったとしても、一人の女性として行動できる時間(例えば、美容院に行く、エステに行く、買い物に行く、お茶をする、読書をする、といった時間)を作れるように、パートナーが動けるといいと思います。
たとえば、自分が家事育児を一手に引き受け、自由時間をプレゼントする日を作る、という方法もあります。 体験してみることで分かることも多いはずです。
ーー育児や時間の過ごし方の工夫によって産後セックスレスの克服がうまくいった夫婦の事例があるそうですね
パートナー側が率先して、二人でデートする時間を作っているというケースがあります。セックスも含めたデートをする時に、子どもをどこに預けるかも含めてパートナーが段取りすることで、子どもを預けることに女性が罪悪感を覚えず、リラックスしてデートができているそうです。
夫婦間の呼び方もセックスレス解消に一役買う
ーー産後にお互いの呼び方が「パパ」「ママ」になるご夫婦も多いですが、家族感が強くなる呼び方です
セックスの前後だけでも恋人時代の呼び方で呼び合うことも、セックスレスを回避・解消することに有効であることを、海外のセックスセラピストも指摘しています。
性器に触れることにこだわらないことでセックスへのハードルが下がる
ーー産後にセックスを再開した時に気を付けることなどはありますか?
産後は性器への愛撫や前戯や性交渉が難しい場合もあると思います。そういう時はスキンシップをメインにしたセックスに変えていくことで女性側の負担が少なくなります。裸になってマッサージだけで終わる日があってもいいし、裸で抱き合って終わる日があってもいいのです。「必ず挿入しなければ」という考えから離れてみることで、セックスへのハードルが下がると思います。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
日本で日本語で「性科学」「性の健康」の普及を目指す性の健康イニシアチブの立上げ人/代表。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表。
HP:https://masayoshiyanagida.tokyo/profile