パートナーと性についてオープンに話し合える関係性を築くには?

「パートナーと性の話ができている人はほんの一握り」なのだとライブライフアドバイザーのOliviAさんは言います。その一握りの人たちは仲がよく、性生活も充実しているそうです。どうしたらパートナーと性の話ができるような関係性を築けるのでしょうか?OliviAさんにたっぷりと教えてもらいました。


監修・話題提供

OliviA(オリビア )/ラブライフアドバイザー
大学時代からセクシュアリティの調査を始め、2007年より女性・カップルに性生活の総合アドバイスを行う。日本と台湾で著書出版。日本の性の専門家として「VOGUE JAPAN」でも紹介される。フェムテック・セクシュアルウェルネス・セクシュアルプレジャーが専門分野。近著「セックスが本当に気持ち良くなるLOVEもみ」(日本文芸社)他。日本性科学会会員。

性についてオープンに話せるカップルは一握り

ーー性についてきちんと話ができるカップルは、仲が良くて性生活が充実しているというイメージがありますが、そんなカップルはかなりレアな存在だそうですね

性生活のことについてきちんと話し合いができてコミュニケーションも取れているカップルは本当に一握りです。その一握りのカップルには共通する特徴があります。ふたりともが「性生活が人生を豊かにしてくれる」という考えをベースに持っています。また、性生活はふたりの関係を維持するために大切だと考えているんです。

ーー性やパートナーシップに対して前向きな捉え方をしている人はほんの一握りということは、多くの人はそうではないということでもあると思います。なぜでしょうか?

日本人カップルが性について話しづらいと感じるポイントがいくつかあります。まず1つ目は、性の話題を恥ずかしいと感じてしまうこと。2つ目は、女性から男性に性の話を切り出すと、男性がダメ出しをされてしまうのではないかという恐怖や不安を感じて話を突っぱねてしまうこと。そして3つ目は、性の話を下ネタだと思っているために「そんな下品なこと」「そんなはしたないこと」と抵抗感を感じてしまうこと、です。

ーー恥ずかしさ、不安、抵抗感。どれも乗り越えるのが難しそうですが、最初の一歩を踏み出すためにできることはありますか?

今は性に関する様々な情報が様々な媒体を通じて発信されています。自分の価値観に近いものを一緒に見て、感想を伝え合うというのがいいと思います。この時「私はこういう価値観は大事だと思うけど、あなたはどう思う?」「こういうことを話し合うことは大事だと思うけど、どうかな?」と、自分の考えを押し付けるのではなく投げかける形で話を切り出すことが大事です。

実際にやってみて好みを擦り合わせる

ーー頻度や好みなど、自分がセックスに求めるものが相手と異なっている場合、どんなふうに擦り合わせていけばいいのでしょうか?

性の価値観は人それぞれ違うので、一致しているほうが奇跡的です。自分の価値観を押し付けず、私の価値観・あなたの価値観を共有していくという姿勢が大事だと思います。「これくらいの頻度でしたい」「こういう内容のことをしたい」など、想いの丈を、対等な立場で、否定することなく、出し合い、聞き合ってください。擦り合わせはそこからしか始まりません。

ーー話し合わずに思い込みで「きっと相手はこう考えているだろう」と決めつけて、すれ違い続けているカップルも多いそうですね

自分の想いの丈を伝えることで、どう合わせていこうかという話し合いを始めることができます。お互いのしたいことを出し合ったら、一定期間はどちらかの好みの方法を試してみる。その次は相手の好みの方法を試してみる。という具合に、期間を決めてお互いの好みの頻度や内容を試してみて、話し合いをして微調整します。健康被害を伴うことや、強い拒絶感を伴う内容でなければ、食わず嫌いの可能性もあるので、試してみて自分がどう感じるかを確認してみるのもいいと思います。もちろん少しでも嫌だな、違うなと思ったら、そこでストップしてもらって大丈夫です。

ーーそもそも、「こんなふうにしたい」と相手に伝えるには、自分がどうしたいのかを分かっている必要がありますね

私は「セクシュアル・ファンタジー」と呼んでいますが、理想の性行為や理想のシチュエーションを模索していない方も多いですね。「相手の求めに応じることがセックス」と思っている女性も多いと感じます。自分はパートナーとどういうセックスをしたいのかを一旦掘り下げて考えることも大切です。

話を切り出すならセックスをしていない時のほうがいい

ーー自分がしたくないことを相手から提案された場合や、頻度のニーズが合わない時はどんなふうに伝えればいいですか?

前者の場合、「それは難しいけれど、こういうことならできそう」と、自分がやれそうな範囲のことを提案してみるといいと思います。

また、頻度については、私は、中間点を取るのがいいと思っています。心身に負担がない範囲でお互いの希望するペースを試してみて、そのうえで話し合いをして間を取ることになるのではないかと思います。頻度に関することでいうと、1回のセックスの内容を濃いものにすることで、思い出にも残り、次のセックスを楽しみに待つことにつながります。性行為の回数を少なくしたいというニーズのある人にとっては、1回の性行為の満足度を上げることも大事だと思います。

ーー話して擦り合わせをすることはやはり大事だと感じます。一方で、突然「セックスについて話し合いをしましょう」と言われて戸惑ってしまう人もいるかもしれません。明るく楽しくポジティブに話すには何が必要でしょうか?

話し出すきっかけも大事です。性行為に関する話を、セックスの最中や直前直後に切り出そうとする方も多いです。でも、お互いにリラックスしていて、性行為を予定していなくて、ふたりとも疲れておらず機嫌のいいゆったりした時に切り出していくほうがいいと思います。また、ベッドの上ではなく着衣の状態リラックスしている時のほうが建設的に話し合えます。

ーーセックスの話だからセックスの時に、という考えではないほうがいいのですね

そうですね。性の話は自分の健康情報として話し合うといいと、私は言っています。「自分の身体は今こういう状態・こういう調子なんだよ」と伝えるつもりで話すと、相手も「話し合わなきゃ!」というプレッシャーを感じずに済みます。

冷静になるために紙に書いてコミュニケーションを取るという方法も

ーー話し合いをする時に、相手に言ってはいけないNGワードはあるんでしょうか?

言葉は取り消せず、性に関する話は特にずっと残ってしまうんですよね。よく言われる話ですが、YOUを主語にして「あなたはこうだ」という言い方をされるときつく責められているように感じてしまいます。Iを主語にして「私はこう思っている」という言い方で自分の想いを伝えていくといいですね。

また、「女のくせにそんなにセックスに興味があるのか」「男のくせに情けない」「男がリードしてくれ」といった、セックスの中で性別役割を課してしまうような言い方は心に残ってしまいます。

ーー実際に自分が話し合いの当事者になると、そういった話し方をしているのかいないのか、自分のことが分からなくなってしまうこともありそうです

そういう時は、話し合う項目を挙げたアンケート用紙みたいなものを作っておいて、お互いの価値観をお互いに書いたうえで見せ合って話し合いをしてはどうでしょうか。文字に書くと冷静になれるので、書いたうえで話し合いをするといいと思います。

性の話もできることで絆を感じられるようになる

ーーカップルで性に関するコミュニケーションができているとどんなメリットがありますか?

性の話ができないと、長い目で見るとデメリットのほうが多いと思います。性行為のことだけでなくデリケートゾーンの状態に関すること、メンタルの状態に関すること(性欲が湧かないのは心理的な理由もよくあるので)といった、健康情報を共有しているという目線で話せるといいですね。それがセクシュアル・ウェルネス(性的に健康な状態)ということです。性の話は話しにくいと思いますけれど、「相手はこう思っているだろう」という憶測で話を進めて、相手の本当の想いが分からないまま、すれ違い続けているカップルも多いです。性のことに限らずお金のことなどタブーとされている話題について自分の想いを言葉にして伝えることは、自信にもつながるし、「タブーといわれていることも話し合えている私達っていい関係だよね」というところにつながって、も感じられるようになります。


パートナーと性についてオープンに話し合える関係性を築くには?をテーマに、ラブライフアドバイザーのOliviAさんにお話を聞きました。「セックスをしていない時にセックスに関する話をしたほうがいい」「想いを紙に書いて見せ合って話し合いをすると冷静になれる」など、今日から取り入れられそうなヒントを教えていただきました。

続いて、OliviAさんに、「夫婦で読みたい!性の専門家が伝授する産後の夫婦生活のリスタート」をお伺いします。

取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
日本で日本語で「性科学」「性の健康」の普及を目指す性の健康イニシアチブの立上げ人/代表。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表。
HP:https://masayoshiyanagida.tokyo/profile

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