女性のライフサイクルのなかで、誰にでも訪れる「更年期」。更年期や更年期障害というのはよく聞く言葉ですが、実際にはどんな状態なのかよく分からない人も多いのではないでしょうか。
今回は更年期障害について、主な症状や、更年期障害と間違いやすい他の病気、検査や治療の内容、普段の生活で気をつけることなどを産婦人科医の柴田綾子先生にお聞きしました。
産婦人科医 柴田綾子先生
2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信をおこなっている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。
更年期障害の受診タイミング
ーー更年期障害の受診をオススメするのはどんな時ですか?
生活や仕事に支障があって困る症状があったら、まずは産婦人科を受診してほしいと思います。 個人差はありますが、更年期は閉経が起こる5年前から始まるため、40代後半から50代前半に症状が出てくることが多いですね。
生理不順になる人も多く、生理の間隔が長くなったり短くなったり、持続日数が長くなったり、一時的に量が増えたりすることがあります。
更年期障害に症状が似ているけれど、そうではない病気の場合もあります。たとえば女性に多い「橋本病」だと、便秘がちになったり、体重が増えたりむくみやすかったりします。橋本病の場合は女性ホルモンではなく、甲状腺のホルモン値が下がってしまうことが原因ですね。
反対に甲状腺のホルモン値が上がりすぎているのがバセドウ病なんですが、たとえば動悸が出たり汗をかきやすくなったりします。そういう症状は更年期にも出たりするので、間違えやすいんです。
更年期障害の受診先
ーーどんな病院にかかるのがよいでしょうか?どのような検査がありますか?
「更年期による症状かな」と思った時の受診先として、産婦人科が一番対応しやすいと思います。ですが、中には産婦人科は受診のハードルが高いという人もいるかもしれません。そのような人は、まずは体調不良について内科で一旦相談してから、次に産婦人科というかたちでもいいと思います。
更年期の症状というのはたくさんの検査をしなければいけないわけではないので、大きい病院でなくても、近くの行きやすいクリニックや施設で大丈夫です。
診断に際しては、どんな症状にお困りかを聞きます。特に更年期の人は生理不順になることが多いので、生理について詳しく伺うのが一番大切です。必ずしも採血して女性ホルモンの値を調べないといけないというわけではありません。
また、更年期障害と思っていたら実は命に関わる別の病気が隠れていたりすることの方が怖いです。40代や50代の女性には、更年期と似たような症状が出る甲状腺のホルモンの異常や病気も結構多いんですよね。話を聞いて「甲状腺の異常かな」と思ったら、採血をして甲状腺のホルモン値を検査します。
あとは更年期では動悸が出ることがありますが、中には心臓が悪い人もいるんですよ。更年期と関係なく不整脈がある場合もあるので、話を聞いて必要であれば心電図の検査をします。
話を聞いて、生理不順があって甲状腺の異常もないし心電図も問題なさそうだし、それでも症状があるということだと、「これは更年期障害ですね」という話をするというかたちです。
「この検査で陽性なら絶対に更年期障害」と判断できる検査はありません。必要に応じて心臓や甲状腺を調べることがあるので、1回目の受診では「更年期障害」と診断するのが難しいこともあります。
話を聞いて更年期障害らしいということになると漢方やサプリメントを使ったり、ホルモン補充療法といって女性ホルモンを補う薬を使います。それで症状が治ってくると、治療の結果を見てやはり更年期の症状だったと判断することもあります。
更年期障害の治療の選択肢
ーー更年期障害にはどのような治療の選択肢がありますか?
すぐ使える手軽なものとしてはサプリメントがあります。大豆に含まれる「イソフラボン」という成分が女性ホルモンのエストロゲンに似た作用をするといわれています。薬局などでも売っていて、まずはイソフラボンのサプリメントを使ってもらって様子を見ることもあります。ただ、体外からイソフラボンを入れたときに、その人の体の中でそれをエストロゲンに変換できる酵素があるかないかで効果も違うんですね。酵素をたくさん持っている人は大豆のイソフラボンからエストロゲンを作れるんですが、酵素があまりない人には効果がなかったりします。
サプリメントと並んで比較的すぐ始めやすい選択肢としては、漢方があります。市販薬もありますが、薬局で処方箋がなくても買える漢方ってけっこうあるんですよね。自費にはなりますが、自分で買って使ってみても大丈夫です。産婦人科や内科で医療保険が使える場合は、自費ではなく3割負担で漢方を使うことができます。
ーーサプリメントと漢方と薬とはどう違うのでしょうか?
効果の期待値が違っていて、一般的にサプリメントの効果はそんなに強くないので、症状が軽い人向けと考えられています。
漢方は即効性は少ないのですが、相性が合えば色々な症状が改善され、うまく付き合えます。
ーーサプリメントや漢方であまり効果が感じられない場合は、どんな治療になりますか?
更年期障害の症状が強いときは「女性ホルモン補充療法」がお勧めです。エストロゲンという女性ホルモンを体の中に取り入れる薬で、形態としては飲み薬と貼り薬と塗り薬の3種類があります。腟の違和感や乾燥が気になるといった症状には腟剤というものを使います。即効性もあるし、効果としても一番強いです。
ただ、エストロゲンだけをずっと使っていると副作用で子宮体癌のリスクが上がってしまうんですね。それを予防するためにプロゲステロンと呼ばれる黄体ホルモンを併用する必要があります。そのためエストロゲンを使っている場合は、月の後半の約2週間はプロゲステロンを併用するかたちになります。ホルモン補充療法の月の出費としては2000〜3000円くらいです。
あとはプラセンタ注射や白玉注射、ニンニク注射を提供しているクリニックもありますが、更年期障害への効果を保証するものではありません。美容目的で提供されていることが多く、基本的には自費での診療となります。なおプラセンタ注射だけは、回数制限がありますが保険適用が可能です。
ーー女性ホルモン補充療法の飲み薬・貼り薬・塗り薬は、使い分けの基準はありますか?
薬を皮膚から入れる貼り薬や塗り薬の方が、血栓症や高脂質血症などの副作用が少ないです。そのため、まずはシールやジェルを試してみて、もしそれで皮膚が荒れてしまう人は飲み薬にすることが多いです。飲み薬だと副作用で吐き気が出る人もいるので、使いやすさや副作用の有無によって使い分けてもらって大丈夫です。
ーー閉経すると、自然と更年期障害の症状が治まっていくものでしょうか?
月経・生理がなくなってから1年たったとき、1番最後の生理があった年齢を「閉経年齢」というんですが、日本人の閉経年齢はだいたい50歳くらいになります。更年期というのは閉経の前後5年間を指すので、人によっては10年間くらい更年期の症状が出る人もいます。閉経しても、すぐに症状が消えるよりはしばらく残っていることが多いです。
ただずっと女性ホルモンの薬を使い続けると、血栓症という血が固まる副作用のリスクがあるので、だいたい5年前後で薬を減らしたり1回卒業するというのを目標にしています。
普段の生活でできること
ーー普段の生活で気をつけることや、セルフケアの方法はありますか?
更年期になると体温調節が難しくなって、急に暑くなったり汗が出たり、それなのに手足が冷えるというようなことが多くなります。特に職場で働いている人は、男性と室温の感じ方が違うので、重ね着をしたりするといいと思います。
それに更年期のホットフラッシュが原因で不眠症になる人が多いんですが、寝室の温度を下げるとホットフラッシュがやわらぐことが多いんですね。また、香辛料や煙草、アルコールはホットフラッシュの症状を悪くしやすいと言われているので、香辛料や煙草は控えめの方がいいと思います。
それから適度な有酸素運動は生理痛やPMSにも効くんですが、更年期の症状にもいいと言われています。研究ではヨガやマインドフルネスが更年期の症状をやわらげるという報告が出ているので、運動を日常生活に取り入れていただくといいと思っています。
更年期の症状は個人差が大きく、対処方法も人それぞれです。自分に合った方法を見つけて、更年期とうまく付き合っていきたいものですね。
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更年期は体調の変化だけではなく、家族や職場の人間関係などでも悩みが多い時期かもしれません。こんな風なつらさがあった、こんな風に向き合いやり過ごした、周りの人からこうしてもらえて助かった、など、みなさんの体験談やあるあるを募集します。いただいたエピソードはツキとナミ編集部にて一部記事の中でもご紹介させていただけたらと思います。
〇ライタープロフィール
きのコ
群馬を中心に多拠点生活をする文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療や子宮筋腫による月経困難症をきっかけに、生理との向き合い方に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。