世界146ヵ国中116位。日本のジェンダーギャップ(男女格差)は「先進国の中で最低レベル」「アジアの中でも順位が低い」ということが、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数2022」から見て取れます。
「わが子が大きくなる頃には、男女の格差が改善していてほしい」と思う方は少なくないと思います。男女の格差を生み出す(また、許容する)社会環境は、ひとりひとりの心がけ次第でいい方向に変えていけるはずです。男女の格差に敏感で、そういうものにNOと言えるようにわが子を育てるにはどうすればいいのでしょうか?
文筆家の清田隆之さんに聞きました。
監修・話題提供
清田隆之 文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。「恋愛とジェンダー」をテーマに様々な媒体で執筆。著書に『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)など。新刊『どうして男はそうなんだろうか会議――いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』(澁谷知美さんとの共編著/筑摩書房)が発売中。Twitter→@momoyama_radio
編集部から
「ジェンダー」とは、文化的・社会的な性差を指します。社会の中で取り決められた「男性・女性とはこういうもの」と期待される役割分担意識や差異を言います。例えば、「男性は家庭の外で働いてお金を稼いで家族を養うもの」「女性は家の中で家事や育児を担うもの」「男の子のおもちゃはロボットで、女の子のおもちゃはぬいぐるみ」などです。これらは不変の事実ではなく、社会の中で生み出された(だから、本当はいくらでも変わっていいはずの)「男らしさ」「女らしさ」です。女性が外で働いて、男性が家で家事育児をやってもいいし、女の子がロボットのおもちゃで遊び、男の子がぬいぐるみで遊んだっていいのです。
ジェンダーに触れる場面は小さいうちからある
ーー小さな子どもの中に、既にジェンダーに関する固定観念があると感じることはありますか?
姪っ子が小学生なのですが、入学して間もない頃に学校で男の子に「どけよ!」と言われ、男の子が怖くなったと語っていました。そうやって男の子が力で他人を従わせようとする感じは、既に小学校1年の頃から存在しているのか……と驚きました。
また、わが家にはもうすぐ3歳になる双子がいるのですが、彼女たちは電車が好きなんですね。でも、世間に漂う「電車が好きなのは男の子」という何となくの雰囲気に触れていくうちに、「電車は女の子が興味を持つものじゃないのか…」と感じて離れていくこともあるかもしれません。
もちろん「男=強者・加害者」という構図の話だけではなく、例えば小学校のプールの時間って、男子用の更衣室がなかったりしますよね。そういう経験を通じて「男の裸は見られても隠すもんじゃない」と少しずつ刷り込まれていく気がするし、男の子たちは「なんとなくないがしろにされてる感」を抱いてしまうかもしれない。
あるいは、よく「男の子は泣いちゃダメ。我慢しなさい」とは言われるけれど、なぜ泣いちゃダメなのかは教えてもらえないし、今どういう気持ちなのかを問われる機会が乏しいように感じます。 こういう事例は無数にある気がします。
ーー性に関わる課題やジェンダーの問題などが最近少しずつ関心を寄せられるようになってきていますが、最近だからこその変化はあるでしょうか?
個人的にはその傾向を強く感じます。例えば大学生と話すと、ジェンダーの問題に興味を持っている男性も多いし、「傷つけたくない」「加害者になりたくない」という想いを口にしたりする。「つらい」「苦しい」と心の内側を語ってくれる人も少なくありません。相談に来る男性は全体的には少ないものの、年代別では20代が多いです。若い世代になるほど、旧来的な男らしさの呪縛みたいなものが弱まっているんじゃないかと感じます。もちろん新しいタイプの呪縛はあると思うので楽観的には言えませんが。
ジェンダー平等の意識を育むために家庭でできること
ーージェンダー平等には「ジェンダーにしばられないで自分の個性も相手の個性も尊重する」という側面がありますが、それができる人に育てるために家庭で何ができますか?
ノウハウのようなものがあるわけではないと思いますが、たくさんおしゃべりすることは大事だなと感じています。例えば双子たちは、嫌なことがあると泣く、叫ぶ、暴れる、駄々をこねるなどで表現することが多いのですが、そのときに、何があったのか、何が嫌だったのか、どう感じたのかと、粘り強くコミュニケーションをすることで、本人が感じていることが段々言葉になっていく感じがある。最後は「本当はこれがしたかったのにできなかった」と理由を語ってくれることがあり、「それで悲しかったんだね」とこちらが受け止めると泣き止んだり、「じゃあもう1回それで遊ぼう」という感じで、折り合いがついていったりする。
そういう経験を積み重ねることが、自分の感情や直面している問題を言語化することにつながると思うんです。本人の内部に発生している何かは本人にしか分からないので、それを本人が言葉で捉えられるように伴走するイメージでしょうか。大人が先回りして「こうなんでしょ?」と外側から解釈を与えてしまうと、「(ちょっと違うけど…)うん…」と言ってしまう可能性がありますよね。なので、できるだけ本人のしっくりくる形で本人が言葉にして表現するのを待つ。そういう習慣をつけることは、ジェンダーの問題を考える上でも大事なことで、本人が自分の言葉で表現できるよう、話し相手として言語化のお手伝いしていけたらいいなと自分自身は考えています。
そのためには、相手の状態は相手しか分からないという前提に立つ必要がある。そうじゃないとこちらが「こうなんでしょ?」と決めてしまう。そこはむしろ、子どもではなく大人側の問題になってくると思います。
――子どもが言葉にするのを手伝ううえで何かコツはありますか?
コツというかタイミングの話になりますが、2〜3歳の頃はまだ目の前のことにしか興味が持てず、思考や感情もそこまで長続きしませんよね。なので、何か問題が発生した時が、それについて話す一番ホットなタイミングだと感じます。相手をぶってしまった、おもちゃの取り合いをした、無視されて寂しかったなど、強い感情が発生しているうちに、そのことについてしゃべるのが一番いいのではないかと思います。
――家庭でジェンダー平等を推進するとどんなメリットがありますか?
ジェンダー観って、大人たちの振る舞いや周囲からの扱われ方など、日々接している物事から「何となくそういうもの」という感じで無意識的に吸い込んでしまうものだと感じます。「ご飯作ってくれるのはいつもお母さん」のように役割が固定されているのを見ていれば、それが性役割分業の意識に繋がっていく可能性は大いにありますよね。なので、特に性別で役割を固定したりせず、色んな人が色んなことをやりながら多様な場面を共有していくことで、ジェンダーにまつわる特権や押し付けを相対化できるように思います。
大人も自分の気持ちを無視しないことが大事
――ジェンダー平等を願って日々子育てをがんばっていらっしゃる保護者のみなさんに清田さんから応援メッセージをお願いします
ジェンダー平等に関する議論を聞くと、どこか叱責されているような感じがしたり、理想論を押し付けられているような気持ちを抱いたり、「大事だとは思うけどそんな余裕ないよ!」って息苦しくなったり、様々な不満を感じることもあるかもしれません。パートナーと足並みが揃わないという声も確かに多いし、「男性の育休を社会的には推進しているのに自分の会社は全然取れない、取っても出世に響く」という男性の嘆きも少なくありません。現実にはハードルや問題がいろいろ立ちはだかっているように思います。
あるいは、自分自身の中にジェンダーの呪縛が存在していると、自己矛盾のような葛藤に苛まれたり、「自分だって苦しいのに……」というような思いがわいてきたりすることもあるかもしれない。そう感じたら、近しい人に言う、ノートに書き出すなどして、自分の中に発生した気持ちを無視せず拾ってあげてほしいなと思います。ジェンダーについて考えることは、自分自身と目の前の他者、そしてそれを取り巻く社会と向き合う作業になります。ひと筋縄ではいかない問題だからこそ、みんなで一緒に頑張っていきたいですねと切に思っています。
新刊のお知らせ
清田さんの新刊『どうして男はそうなんだろうか会議 ――いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』が刊行されました。 今回伺ったようなお話もたくさん載っているとのことで、ぜひもっと深く知りたい方はお手に取ってみてはいかがでしょうか。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。
また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
HP:https://masayoshiyanagida.tokyo/profile