心地よい人間関係の鍵「バウンダリー」とは

本当は断りたいことも、嫌とハッキリ言うことができない…。
つい他の人の世話を焼いてしまい、嫌がられたり疲れたりしてしまう…。
相手のちょっとした言動がいつまでも気になってしまう…。
友人や恋人、家族の間でも、このような関係性の難しさを感じたことはありませんか?

バウンダリー(境界・境界線)」を知ることで、心地よい人間関係のヒントになるかもしれません。今回は、人間関係でお互いに安心して自分らしくいられる「人との安全交流」ための考え方を紹介します。

バウンダリーとは

子どもへの暴力防止をめざす予防教育を行う認定NPO法人CAPセンター・JAPAN(以下、CAPセンター・JAPAN)によると、バウンダリーとは、誰もが持っている「こころ」と「からだ」を守る安心・安全な透明カプセルのようなものだと説明しています。

このバウンダリーという概念を持つことで、人との関係性のあり方を意識することができ、自分の気持ちや言動を調整することにも役立ちます。

たとえば、他の人と話す時、どのくらいの距離感が居心地がよいかは人によって違います。相手に触れられても平気という人もいれば、ちょっと離れていた方が安心する人もいます。また、相手との関係性だけでなく、その時の気分や体調によっても変わることもあります。このようにバウンダリーは、状況や関係性によって柔軟に変わりうるものなのです。

しかし、変わらないことが1つあります。それは、「わたしのバウンダリーはわたしが決める」―つまり、「わたしのからだはわたしのもの。わたしのこころはわたしのもの。わたしのことはわたしが決める」ということです。

まずはわたし自身のバウンダリーを意識し、認め、肯定するところから、お互いのバウンダリーを大切にする「人との交流安全」はスタートします。

バウンダリーにもいろいろある

バウンダリーには、大きく分けて3種類あります。

物理的バウンダリー(自分のからだや持ち物、時間、空間などを守る)
心理的バウンダリー(価値観、考え、プライバシーなど、自分のこころを守る)
社会的バウンダリー(マナーやルール、校則や法律などを守る)

例を挙げると、嫌だと言っているのに勝手に部屋に入るのは、物理的バウンダリーが守られていないこと、スマートフォンの中身を勝手に見られたりするのは心理的バウンダリーや、マナーといった社会的バウンダリーが守られていない事例になります。
だからこそ、お互いの意思・意思表示を尊重し、もしもバウンダリーを越えるときには、提案・確認、そしてどんな意思表示も受け入れるプロセス(同意)を取る必要があります。

あなたのバウンダリーはどう?

あなたはバウンダリーのゆらぎについて、気付いたことがあるでしょうか?
バウンダリーを侵害されることが続くと、自分のバウンダリーがあいまいになっていき、自分が本当はどうしたいのかわからなくなってしまうかもしれません。

自分の感情に気付きにくく、さらには、「嫌」だと感じられない、または感じてもどうすることもできないと思い、不本意なことでも断りづらく、バウンダリーの侵害に気付きにくい状態になってしまうかもしれません。もしくは、よかれと思ってお世話をしすぎたり、相手の気持ちにお構いなしに強引に物事を進めたりするなど、相手のバウンダリーを侵害しやすい状態につながることもあります。

バウンダリーを自分が越えている、または相手に越えられている状態を「仲がよい」関係と認識してしまい、危険な行為や関係に安心感を覚えることもあるかもしれません。また、社会的役割や職業的地位等により、関係性に力の不均衡があると、より力を持っている側にNOと言いづらいことにもつながります。

大人と子ども、先生と生徒、上司と部下、など、力を持つ側が相手に提案・確認を行うこと、力を持たされていない側がNOと言っても受け入れられ、不利益がない環境づくりを心掛けることが大切になります。

バウンダリーをどう伝える?

このような「わたしのバウンダリー」の感覚に日常生活で向き合うことは、これまでの人間関係の難しさを紐解くヒントにもなります。

お互いに意思・意思表示、YES/NOを確認しあい、それが受け入れられ、受け入れる経験を重ねていくことがわたしのバウンダリーの明確化につながります。周囲の人との間でバウンダリーの概念や社会的距離、親密さの度合いによりふさわしい「触れる」「話す」「頼る」を共通の手がかりにできれば、「人との交流安全」を実現することができます。

ここで気をつけたいのが、バウンダリーを越えられそうになったときの「NO」は、その行為に対するNOであり、その人自身を否定・拒絶するものではないということです。

NOと意思表示をすることは、相手のバウンダリーを侵害することではありません。また相手のNOを受け入れることは、自分のバウンダリーを侵害されるということではありません。たとえば、相手と手をつなぎたいと思い、手をつなごうと言って、相手から断られることはショックを受けるかもしれません。しかし、相手のバウンダリーを決めるのは相手自身であり、NOを受け入れることは、相手を尊重することです。同じように、自分のバウンダリーも自分で決めて、相手にNOと言っていいのです。

そして子育てにおいても、おとなが子どものバウンダリーを意識し、侵害しないように心がけ、子どもが自分のバウンダリーを強化していけるように手伝うことが、子どもへの暴力やいじめをなくしていく予防の大きな力になっていきます。

もっとバウンダリーを学びたい、広げたい人へ

この記事でのキーワード「人との交流安全」という言葉も、CAPセンター・JAPANによる造語で、「交通安全」について繰り返し交通ルールを学ぶのと同じように、「人との交流安全」についての手がかりやルールを学ぶ機会を広げていきたいということでつくられたそうです。ここまで紹介してきたバウンダリー・人との交流安全について、7つの色の同心円図などを使って構造化し、視覚的にもわかりやすい教材を使って学べるサークルズプログラム®があります。

CAPセンター・JAPANが提供しており、筆者も先日、サークルズおとなセミナーを受講しましたが、ワークショップ形式も取り入れられ、体感的に分かりやすい内容となっています。特に子どもに関わる機会のある方は、バウンダリーについて知って、実生活でも活用してみてはいかがでしょうか。

本記事は、CAPセンター・JAPAN様にご監修いただきました。

CAPセンター・JAPAN
子どもの人権が尊重され、子どもへの暴力のない社会をめざして活動しているNPOです。 子どもの特別に大切な3つのけんり「安心・自信・自由」をスローガンとしてCAP(キャップ)プログラム/予防教育を行っています。サークルズプログラム®についてはこちら。

執筆・取材

染矢明日香

NPO法人ピルコン理事長。これからの世代が自分らしく生き、豊かな人間関係を築ける社会の実現を目指し、若者と共に中高生向け、保護者向けの性教育講演や情報発信、性教育教材の開発・普及、政策提言等を行う。公認心理師、公衆衛生学修士、思春期保健相談士、慶應義塾大学SFC研究所上席所員。著書に『マンガでわかる オトコの子の「性」』、『はじめてまなぶ こころ・からだ・性のだいじ ここからかるた』。

この記事を書いた人

ツキとナミ運営事務局

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