
夫婦やパートナー間で家事や育児に取り組む際、「なんだかうまくいかない…」「相手がやってくれなくてイライラする」「自分も頑張っているつもりだけどダメ出しばかりされる」といったお悩みがありませんか?家事をパートナーや家族とうまくシェアできていないことが原因かもしれません。「物事を学ぶ際には基本の型を覚えてから少しずつ自分なりにアレンジしていくものなのに、家事については自分の実家のやり方しか参考にできるものがない。だから、基本の型を理解しないまま取り組んでうまくいかなくて四苦八苦しているケースが多くあります」と教えてくれたのは家事シェア研究家である三木智有さん。「家事シェア」という言葉の生みの親でもあり、講演も多く数多く行っている三木さんに、前半は家事シェアの大切さ、後半は家事シェアの具体的な進め方について、詳しく聞きました。

三木智有/家事シェア研究家・NPO法人tadaima!代表・インテリアコーディネーター
リフォーム会社でインテリアプランニング、施工管理、営業販売などの業務を経て独立。現在はフリーのコーディネーターとして活動中。
家は家族にとって何より”自分らしくいられる居場所”であって欲しい。という想いから、「10年後も”ただいま!”と帰りたくなる家庭」で溢れた社会の実現を目指し、2011年にNPO法人tadaima!を起業。
日本唯一の家事シェア研究家として、家事シェアを広める活動を行っている。
家事シェアとは?

ーー家事シェアとは三木さんが作られた言葉だと思いますが、どのようなものなのか教えてください
家事分担と家事シェアはどう違うの?ということをよく聞かれます。僕が家事シェアについて取り組みはじめた14年くらい前は、「家事を分担しよう」というと、「パパを教育しよう」や「パパを上手にコントロールするならこうすればうまくいく」というニュアンスが強くありました。
これらはママ側の切羽詰まった状況ゆえのことだと理解はできるのですが、僕自身男性として、「分担」と言ってしまうと教育やコントロールの意図が感じられるため、こうしたアプローチにちょっと違和感を覚えたんです。家事はママの仕事という前提がそもそも間違っていて、本当は家族みんなで共有しているものなんじゃないかと。そこで、ママが持っている家事をパパにどうやって上手に分けて分担するかという前提ではなく、家事は家族みんなのものなんだよ、みんなで共有して上手にやりくりし合おうよという意図を込めて、「家事シェア」という言葉を作って発信を始めました。
その時からもう14年ぐらい経って、今はわざわざ家事シェアと言わなくても、家事や育児は家族みんなのものだよねという意識がすごく根付いてきていると感じます。今は、「家事シェアするって、具体的にどうやっていくの?」の段階に進んだんじゃないでしょうか。
家事シェアには「家庭を回す」と「家庭を育む」の2つの意義がある

ーー家庭の中で家事シェアが実際にしっかりと根付いていった場合に、どのようなメリットがありますか?
家事シェアには、「家庭を回す」と「家庭を育む」の2つの意味があると感じています。
まず「家庭を回す」というところだと、ひとりで孤軍奮闘するよりふたりで頑張ったほうが、当然手間が半分以下になります。忙しい毎日の中で、ママに仕事も家事も育児も負担が寄るというのは現実的ではないので、助け合うことで手間が楽になっていくという意味があります。これは目に見える分かりやすいメリットだと思います。
もうひとつ、「家庭を育む」という大きな意味があります。要は信頼関係を築いていくことにつながるんです。産後期にパパがどういうふうに家事や育児に携わってきたかが、10年先、15年先の妻から夫への愛情に影響を及ぼすということが調査で裏付けられました。愛情曲線と言われたりします。日々の生活というのは家事・育児だけではないですが、家事・育児も通して助け合って支え合っていくことで初めて、夫婦の信頼関係は築かれていくように思います。信頼関係は、強い思いがあるだけでは育みにくく、助け合いや支え合いを通してある程度実感できることが大事です。なので、どれだけ思いが強くても何もやってない人は信頼関係を育みにくいです。
そういう前提に立って家事や育児をシェアすることは、すごく良い信頼貯金への投資になって、5年後、10年後に振り返った時に、知らず知らずのうちに、信頼の貯金がすごく貯まっている状態になると思います。これは目には見えづらいですが、家庭を育むという意味で大きなメリットではないでしょうか。
ーー家庭を育むって、ハッとさせられる言葉ですね。これまでに色々な方の家事シェアの相談に乗ってきていると思いますが、成功事例を教えていただけますか?
以前ご相談に乗ったケースです。パパはどうしても同席ができないからと、ママだけの相談を受けていました。やりとりを重ねる中で、そのママ自身のアプローチの仕方が少しずつ変わっていって、少しずつ対話ができるようになっていったことがありました。
4カ月くらいのセッション期間の最後の1ヶ月半から2ヶ月くらいは、パパも一緒にセッションに参加するようになっていきました。セッションの際に、ママだけと話す時間やパパだけと話す時間も設けるんですが、その時にパパが「すごく責められている感じがしていた」と言っていました。自分も頑張っているのだけれど、ママからは「あれができてない、これができてない」ということばかりを言われていたというんです。このセッションを受けることでママの態度が変わってきて、お互いを認め合えるようになってきた気がすると言っていました。
どうやって家事をやっていこうか、育児も含めてどういうふうに生活を回していこうかという話し合いをしていくなかで、ご夫婦の関係性が変わっていったっていうのはすごく印象的でしたし、家事をきっかけに変化が起こった事例のひとつかなと思います。
家事シェアの話し合いには一緒に楽しく過ごせる関係性が不可欠

ーー家事シェアについて話し合いをするうえで、パートナーにどう伝えたらいいのか分からない方もいると思います。何かアドバイスはありますか?
家事シェアの相談にいらっしゃる方にも色々な深刻度の方がいらっしゃいます。「パートナーと家庭を運営するための真面目な話し合いなんてもうできません。話し合いができるなら相談には来てません」という方もいらっしゃれば、「話はできるけれど具体的にどうすればいいかが分からない」という方もいらっしゃいます。
2人で家族会議をやるのは難しいという段階にいらっしゃる場合は、いきなり家事の話をしてもうまくいきません。そういう方にまず伝えているのは、「まずは夫婦で一緒にいて楽しい時間を増やすことから始めてください」ということです。何でもいいんです。映画を観る、お酒を飲む、ご飯を食べる、お茶をする。子ども抜きで、夫婦2人で一緒にいて楽しいと思える時間を増やすんです。結婚前にはそういう時間があったはずです。
できれば定期的に設けたほうがいいです。「土曜日の夜」「毎月15日」など、いつでもいいです。その時間を増やしていくうちに2人でいる時間が楽しくなってくると、対話ができるようになってきます。一緒にいる時間がずっと、家事シェアの話、子どもに関する相談、あれが嫌これが嫌という話だと、一緒に過ごす時間は恐怖の時間になってしまいます。そういう関係性の中で「今夜、話がしたい」と言われたら、言われた側は「またか…嫌だな、怖いな」と思いますし、言う側も「今夜嫌な話するんだよな…」となります。そんな気持ちで誘ってうまくいくことはありません。
シンプルに楽しい時間を増やして、2人でいる時間が楽しいと思えるようになってから、ちょっとずつ家事や育児の話をお互いができそうなところから始めていくのが現実的です。
最初から「週1回」と設定して話し合おうとすると厳しい場合もあると思います。月1回から始めて、楽しくなってきたら月2回に増え、毎週になり、ということでかまいません。なるべく低いハードルから入って、徐々に関係性を良いものにしていくつもりで大丈夫、という気持ちで取り組んでいただくのがいいのではないでしょうか。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/合同会社6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正/執筆業、ブランディング・プロモーション支援業を行う合同会社6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
性の健康イニシアチブ https://sexualhealth-initiative.org/
合同会社6483works https://6483works.tokyo/