「子どもにプライベートゾーンをどう教える? 」では、「プライベートゾーン」という言葉についてや、親子でプライベートゾーンについて話す際に保護者 が知っておきたいことなどを取り上げました。今回はその続編とも言える内容で、子どもに同意を取ることの重要性や、保護者が気を付けたい行動などについて、助産師・保育士・チャイルドファミリーコンサルタントのやまがたてるえさんにお聞きしました。
やまがたてるえ/助産師・保育士・チャイルドファミリーコンサルタント
病院勤務後、自身の妊娠出産子育てを経て、地域子育て支援の活動を157年行なっている。たくさんの親子の子育て相談や、女性ためのカウンセリングなども行っています。子育て支援を、家族支援へとシフトチェンジしたくNPO法人子育て学協会のチャイルドファミリーコンサルタントとしても活動中。現在まで6冊の本を出版。近著は【13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと】
HP: https://www.hahanoki.com/
わが子は自分とは別の人間であり大事な存在
ーープライベートゾーンや同意ということを考えるうえで、保護者が気を付けたい行動にはどのようなことがありますか。具体的に挙げていただけますか?
まず、一般的に胸、性器、お尻、口を指して「プライベートパーツ」といい、その周辺を「プライベートゾーン」と言いますが、私は「全身がすべて自分の大切なものでありプライベートゾーン」だと思っています。子どもの写真の扱いは特に気を付けてほしいと思っています。また、子どもの同意なく子どもの身体を触ることや、同意なく薬を塗ることなども気を付けたい行動だと思います。
ーー子どもの写真の取り扱いは、具体的にどんなことに気を付ける必要があるでしょうか?
子どもが泣いている姿や笑えるようなリアクションを撮影してSNSに投稿すると反応が多いのでついやってしまうという保護者の方もいるかもしれませんが、「もしあなたが同じことをされたらどうですか?」「一度ネットに出した写真はずっと残り続けてしまう。子どもへの影響は?」という視点で考えると、捉え方が変わりませんか?きっと気づかずにやっている方も多いかもしれません。
かわいいわが子の姿をみんなに見せたいという喜びや愛の気持ちで撮った写真が実は子どもを危険にさらしていたり、子どもの権利を侵害したりしていることがあるかもしれません。
ーー「権利」というのは重要ワードだと思います。詳しく聞かせてください
あなたがもし子どもの立場で同じことをされたら嬉しいことかどうかって考えられるといいかなと思います。自分が嫌だと思うことは子どもにもしない。自分は嫌じゃないけど子どもが嫌がることはしない。そういう態度が大切ではないかと思います。
子育てはスキンシップが大事と言われていますし、ついついいつまでも赤ちゃんのようにかわいがってしまう、かわいがりたいという気持ちはあると思いますが、例えば子どもにキスをするときも「そのキスは誰のため?これは子どもにとって良きことなのか?」と考えると行動の仕方が変わってくるはずです。
ーー子育てはわが子を自律(自立)して生きていけるようにすることだと思います。いつまでも赤ちゃんのようにかわいがるというのはそれとは違う方向性のように感じます
日本の文化においては、自分と子どもの境界線が曖昧になりがちです。赤ちゃんが自分の意思で立って歩くようになるまでは手厚いケアが必要ですが、自我が出てくる2歳くらいからは、自分と子どもを別の存在として分けて捉える感覚が大事になります。その感覚は「境界線」や「バウンダリー」と呼ばれます。
ーー同意の話とバウンダリーの話はセットで知っておきたいですね
わが子といえど身体に触れる時に「触っていい?」と声をかけることはとても大切です。これが同意を取るということです。なぜ声をかけて同意を取るかといえば、子どもが自分にとって宝物のように大切な存在だからです。大切な存在で、宝物ではありますが物ではないんです。
さっき言ったように、子どもの写真の扱いは本当に気を付けてほしいと思っています。
「保護者の私がやることなんだから、やってもいいよね」と考えてしまうのは子どもと自分の境界線がない状態です。それは子どもを物扱いしてしまうことです。 こんなふうに言う私も、無自覚に子どもが小さかった頃は写真をSNSに上げたりしていました。今はすべて消しましたが。だから自戒を込めてというところもあります。
日常のふとした機会にYES/NOを言う練習をする
ーープライベートゾーンや同意について、幼いわが子に伝える際、保護者が学んでおく必要もありそうです。どのようにすると良い学びができるでしょうか?
色んな人の話を聞くことがとても大切です。私は地域の教育委員会の仕事をするようになって、教育に関わる人たちの話をたくさん聞く機会を頂き、段々と知識や知見が広がりました。以前はまったくの分野外でしたが、たくさん聞いて分かることが増えました。
今はSNSでも自分の好みの情報だけを選ぶことができます。好みじゃないものにも触れてみたり、子どもが学校で使っている教科書を読んでみたりする中で、知らなかったこと、気づかなかったこと、「おや?」と思うことに出会うと、気づいたり考えたり視野が広がったりするきっかけになりそうです。
また、「こんなことも知らなくて自分はダメだ」と知らなかった無知な自分を責めないでほしいと思います。知らないことがいっぱいあることは素敵なことです。無知じゃなくて未知。今から知っていけばいい。子どもがいたから今まで知らなかったことに触れる機会ができた。そんなふうに思えるといいかと思います。
ーーわが子に伝える際にはどんなことに気を付ければいいでしょうか?
子どもが自分で何かを決めるという経験や、「NO」を示す経験をたくさんさせてあげてほしいと思います。
日々の中で「靴下どっちにする?」「今日どの靴履いて出かける?」「A公園とB公園、どっちに行く?」など、選んで決める練習をする場面はたくさんつくれますよね。
また、「嫌だ」「NO」と言っていい場面もたくさんあるといいですね。「嫌だ」「NO」と言ったときにそれがきちんと受け入れられる経験を積むことも大切なんです。
ーー日常生活の中でできそうなことも多いですね
YES/NOをいうために特別な何かをするわけではなく、日常のふとした場面でこういうことをやっていくほうが現実的です。自分で決めてよかった経験や、自分で決めて失敗した経験を、日々親子で楽しむことが、同意や自己決定の感覚をはぐくんでくれます。
スーパーで、「好きなおやつ買っていいよ」というとうまくいかないことがあります。たくさんのなかから好きなものを選ぶのは、子どもの発達上、年齢が上がらないとできません。3歳~5歳くらいの時は「グミのこの5種類の中から好きなものを選んでくれる?」のように選択肢を用意するといいです。 また「分からない」と言われたときに「わからないか。じゃあ今日はママが決めていい?」という同意を取るのもいいと思います。
自分が率先することで、バウンダリーを理解する大人を増やす
ーー自分以外の大人がバウンダリーや同意についてあまり理解していなかったり無頓着だったりする場合にどんなことができますか?
子どもとのやり取りでの自分の態度を見せることですね。「絶対にこれが大切です!」のように押し付けたり相手を変えようとしたりするより、自分ができることを続けることが大事です。 実際に子どもが嫌な思いをした場合は、子どもに「嫌な時はNOと言っていい」と伝えることや、すぐに声をかけることで守っていくかなと思います。難しいですけどね。子どもの前で、大人同士の間で「バウンダリーが云々(うんぬん)」というようにやりあってしまうのは、子どもが不安に思うかもしれません。バウンダリーが要注意な人がいると前もって分かっている時は、子どもに事前に話す、子どもの目の届くところで見守るという形でサポートするのもいいのではと思います。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/合同会社6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正業、執筆業などを業とする合同会社6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
性の健康イニシアチブ https://sexualhealth-initiative.org/
合同会社6483works https://6483works.tokyo/