近年、小さなお子さんを持つ保護者が子どもへの性教育について話題にする際、「プライベートゾーン」という言葉が登場することが増えました。プライベートゾーンという言葉をどう理解して、どう子どもに伝えるか。子どもへの性教育について保護者はどんなことを悩んでいるか。子どもと性教育について学ぶためにどんな絵本がオススメか。今回はそんなお話を助産師のやまがたてるえさんに聞きました。
やまがたてるえ/助産師・チャイルドファミリーコンサルタント
病院勤務後、自身の妊娠出産子育てを経て、地域子育て支援の活動を15年行なっている。たくさんの親子の子育て相談や、女性ためのカウンセリングなども行っています。子育て支援を、家族支援へとシフトチェンジしたくNPO法人子育て学協会のチャイルドファミリーコンサルタントとしても活動中。現在まで6冊の本を出版。近著は【13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと】
HP: https://www.hahanoki.com/
プライべートゾーンとは?
ーー近年、幼児や小学校低学年のお子さんへの性教育の場面などで「プライベートゾーン」という言葉が使われることが増えたように思います。この言葉の意味を教えてください
胸、性器、お尻、口を指して「プライベートゾーン」と一般的には言われますが、私は「全身がすべて自分の大切なものでありプライベートゾーン」だと思っています。性教育の機会には「あなたの全身すべてが大切」と付け加えるようにしています。
プライベートゾーンについて説明する際に「水着で隠れる部分」という言い方もありますが、これもまた日本独特の捉え方ですね。パンツのなかのことだけを特別視するこの言い方は、性暴力や性犯罪から子ども達を守るために子ども達への伝えやすさを考えた表現なのだと思います。
もちろんその観点は生殖やその人の尊厳に特にかかわる部分という視点から大事ですが、胸、性器、お尻、口だけが大事なわけではなく、全身がすべて大切な自分のものなんだということも合わせて伝えたいですね。
子どもの性のことについて、大人が学んで知識をつけることが大事
ーー子ども達にプライベートゾーンの話をする際に、保護者の方が悩むことはありますか?
幼児期のお子さんを持つ保護者の方から、子どもの自慰行為について相談されることが多いです。子どもが自身の性器に触っている場面を目撃すると心配や懸念を感じたり、「愛情不足が原因なんじゃないか?」と戸惑ったり、という方が多いです。
こういったご相談をされる時には「性器いじり」という表現を使われる保護者の方が多いので、性器いじりという表現自体がネガティブなバイアスのかかった言葉であることや、自分の身体に自分で触れるのは問題ない、といったことをお伝えするようにしています。
大人も、自分の頬に触れたり手や腕を掻いたりすることがありますよね。それと同様に性器に触れているだけなんです。思春期にさしかかって第二次性徴が始まるまでは、子どもが性器に触れていても、大人が思っているような性的な意味はないことがほとんどなので、特別視する必要はありません。性器に触ることで感じている心地よさを大人の誤解で奪わないようにしたいですね。
ーー性器に触ることを特別視しなくていい、というのは、安心する保護者の方が多そうですね
ただ、注意したいこともあります。「性器に触れる」という行為は人に見られて良いものではないので、場所を考えることが大事。「保育園など人の目のある所ではしないで、ひとりでお布団の中などの安全な場所にいる時に触ろうね」といった関わりができるといいと思います。
また、床や机の角に押し付けて痛くならないようにする、手は汚れていないように綺麗に洗っておく、といった知識が大人にあると心強いです。性器にかゆみがあったり、もし誰かから触られたりした場合は、身近な大人に言ってね、と伝えるのもよいでしょう。 そのようなことをアドバイスすると安心する保護者の方が多いです。
ーーその他によくある相談はありますか?
性器の名前をスーパーなど人の目のある所で大声で言ってしまって親を困らせる、という相談も多いです。わが子がクレヨンしんちゃんと同じ行動をするという悩みですが、成長発達の中で起きる出来事だということがこの話のポイントです。
確かに大人から見るとギョッとする行動ですが、そういうことに興味があることは正常だということをまず理解する必要があります。親が怒らないで「どうしてそういったの?」と落ち着いて聞いて、マナーを伝えていく。性のことはいけないことだからなんとかしなくちゃいけないと思われがちですが、優しくマナーとして普通に言い聞かせることが一番効果的です。絵本などを読んで一緒に学んでいくことができれば、こういったトラブルは起きづらいと思います。
繰り返し読みたい!オススメの性教育絵本4選
ーー今、絵本を一緒に読んで学ぶという話がありましたが、オススメの絵本はありますか?
だいじ だいじ どーこだ?
文字が少なくイラストも見やすくて、年齢が低いうちから理解できる内容です。年少さんでもわかります。かなり小さい時から読める良い絵本ですね。「自分のからだやプライベートゾーンを大事にしようね」というメッセージの本の中で最初に手に取るのに最適です。
はじめにきいてね、こちょこちょモンキー!
「こちょこちょって楽しいからし続けちゃうけど、いやになることもあるよね」というメッセージが描かれています。同意を取ってお互いに楽しく過ごすことの大事さを学べると思います。
うみとりくのからだのはなし
同意のこと、境界線(自分と他人の区別)のこと、プライベートゾーンのことなどがとってもバランスよく描かれています。少し文字の量が多いですが、大人が繰り返し読み聞かせをして一緒に少しずつ理解を深めていけるといいと思います。
あっ!そうなんだ わたしのからだ
他の3冊に比べると少し大きい子向けになるかもしれませんがオススメです。からだのことに特化して分かりやすくまとまっています。巻末には大人向けの解説もあるので親も学べます。
ーーオススメの読み方などはありますか?
赤ちゃんのうちからでも2~3歳からでも、繰り返し読み聞かせしてあげてください。繰り返しが大事です。
子どもは日々成長します。一度や二度話を聞いたからOKではなく、歯磨きのように日々繰り返し伝えていくことで身についていくものです。発達段階に応じて必要な情報も受け取れる言葉も変わります。繰り返すことが大事ですね。
そういった視点から、絵本はものすごくオススメです。ご自宅の本棚にぜひ入れておいていただきたいです。からだの健康は暮らしの中にあるものなので、繰り返しは本当に大事です。
性教育の効果を引き出す秘訣は楽しくポジティブに学ぶこと
ーー最後に読者のみなさんにこれも伝えたいということがあればお願いします
近年「性教育ブーム」ということが言われ、その流れの中で「プライベートゾーン」という言葉が登場してきましたが、性教育は人権とからだの仕組みの科学の話で、生きるために大事な知識の道具箱なんです。子どもの健康な成長を見守るひとつの道具を得たと思って、親子で楽しく学んでほしいと思います。
「絶対教えなきゃ!」と硬くなるのではなく、ポジティブに楽しく学ぶ姿勢があれば、しんどい気持ちにもなりませんし、大切なことが子どもに伝わると思います。
「健康にポジティブに生きていくための選択肢を増やす」。 そのために、楽しくやってほしいと思います。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
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