
夫婦のよくある悩みに、「パートナーとのすれ違い」があります。すれ違いはどうして起こるのか、回避するにはどうすればいいのか、こんなすれ違いの場合はどう考えて対応したらいいの?をまとめました。

執筆
柳田正芳
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。
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夫婦がすれ違う原因の多くは、お互いに思っていることのすり合わせ不足

私は、「夫婦のコミュニケーション」について考えるワークショップの講師として、もうすぐ子どもが生まれてくるというタイミングに差し掛かった夫婦延べ1,000組以上と会い、話を聴いてきました。
多くの夫婦との出会いを通じて感じていたことがあります。それは、よくある夫婦のすれ違いの原因は、お互いの思っていること・考えていることが違うのに擦り合わせをしないから、ということでした。
異なる生活環境で育ち、異なる価値観を育んできた人同士が親密な関係となって暮らしを営むのが夫婦という人間関係です。相手と自分で感じていることが違うのは、一切不思議なことでも恥ずかしいことでもなく、むしろ当然と言えます。
産後に加速する夫婦のすれ違い
すれ違いは第一子出産後に加速します。産前は大人ふたりで生活をしているので、多少のすれ違いや違和感があっても自分の中で折り合いをつけることができます。子どもが生まれた後によく見られるのは、子どもを産んでその養育が優先順位の第1位になる妻と、妻の(産前は自分に向いていた眼差しがすべて子どもに向かうようになったという)変化に着いていけず戸惑う夫、というパターンです(すべての産後期の夫婦がこのパターンに該当するわけではもちろんありません。よく見かけるすれ違いのパターンとしてご理解下さい)。
産後のすれ違いは産後に始まるわけではなく、産前からあったすれ違いが、子どもの誕生という一大イベントを引き金にして、無視できない大きな存在になることで始まります。産前・産後問わず、対話の窓をいつもオープンにしておくお互いの姿勢と、気になることがあった時に目をつぶらずに話を切り出す習慣が大事になります。
話し合いに大切な心理的安全性
お互いの考えていることを擦り合わせることが大事です。話し合いの場を持つうえで大切なのが「心理的安全性」です。「皆が気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化のこと」(2021年刊『恐れのない組織-「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』エイミー・C・エドモンドソン著)と定義されていて、夫婦間では「この人になら何を言ってもバカにされたり嫌われたり拒絶されたりしない」と思える関係性のことだと言えます。
まずはあなたが、イライラしない、じっくりと相手の話を聞き切る、相手の話が終わったあとのリアクションを否定的な言動から入らない、といったことを心がけてみてください。人間関係は鏡写しです。こちらが落ち着いて話をすると、相手も落ち着いてくるもの。落ち着いた状態で安心安全に話ができる状況を作ることから始めるといいでしょう。
なお、あなたが心理的安全性を感じられない時もあるかもしれません。その場合は、「相手のどういう態度が気になっているか。どういうふうにしてほしいか」を口頭あるいは手紙に書いて伝えます(この時にも詰める言い方にならず、思いを伝えられるといいと思います)。同じ内容でも、耳で聞くのと目で見るのでは受け取り方が違い、相手によってどちらがより刺さるのかが違います。もしそれでも改善されないようなら、カウンセリングの活用など、第三者に入ってもらうことも選択肢のひとつです。当事者間では事態が進まなくても、第三者が入ることで進む場合があります。
話し合いがうまくいかない時のタイプ別アドバイス

なかなか素直に自分の気持ちを伝えられない人は、「お互いのために大切なこと」と切り出そう
どんな人間関係にも「自分もOK、相手もOK」という対等さが必要です。あなたが自分の気持ちを素直に言わなければ、相手はあなたの考えが分かりませんし、「今のままでいいのかな?」と思ってしまうこともあります。すると「自分はOKじゃないけど、相手はOK」という関係性が固定されます。
しかし、そのような一方的な関係性は、苦しくなり、長続きしません。それはお互いのためにはならないですよね。自分の気持ちをきちんと伝えることは、関係性を壊すことではなく、良好な人間関係のためにお互いにとってとても大切だというところから話し始めるのも一つ。あなたとの関係性を大切にしたい人は、聴くモードになってくれるはずです。
相手の考えていることが分からない人は、まずは自分から
あなたが「相手の考えていることが分からない」と思っている時、パートナーもあなたの考えていることが分からないと思っている可能性もあります。まずは自分の気持ちや考えを言葉にして伝え、そのうえで「あなたの気持ちや考えも聞きたい」と促します。
人によっては、自分の気持ちや考えをうまく言葉にできないことがあります。自分の気持ちや考えを言葉に表して誰かに伝えることは、実はものすごく難しいことなのです。相手が言葉にしてくれるまでじっと待つ。時には「それはこういうことなの?」と相槌を打ちながら、相手が気持ちや考えを言葉にするのを手伝います。その過程もまた、お互いの関係性をより親密なものにしてくれます。
相手が自分の気持ちを理解してくれない時こそ、相手の気持ちに共感を示そう
あなたが「相手が自分の気持ちを理解してくれない」と思っている時、相手も「あなたが自分の気持ちを理解してくれない」と思っているかもしれません。
自分以外の人の気持ちを理解することは、奥が深くて終わりが無くて、言葉でいうほど簡単にできることではありません。
まず自分が、相手の気持ちを誤解なく理解することを心がけます。その過程で、相手も少しずつこちらのことを理解するように変わっていくと思います。
関係性自体を見直すタイミングは?

人間関係を続けていく際には、相手と向き合って、自分のことを伝えて、相手のことを聞いて、「自分もOK、相手もOK」という関係性を続けていこうという意思がお互いに無いとうまくいきません。そのため、以下のような場合は、別れを含め、第三者への相談を考えたほうがいい時かもしれません。
どちらかがそういう姿勢を持てなくなった時
お互いの気持ちや考えを理解する、ということは、お互いに向き合う姿勢が無いと成り立ちません。どちらかにその意思が無く、相手がどのように働きかけてもこちらに注意を向けてくれない時には関係を続けていくことは難しいものです。
暴力を振るわれている時
何があっても、暴力を受けていい人はいませんし、暴力で前に進む人間関係はありません。時々、暴力をコミュニケーションの手段として使って来る人がいますが、これは誤りです。健康的な人間関係には暴力は必要ありません。「相手のことが怖い」と感じる時、暴力を受けている可能性があります。
感情的にもつれている時
「好きだった人のことを嫌いになった」「相手のことが本当に嫌で、もう顔も見たくない」といった状況になった場合、そこから相手をもう一度好きになるのは難しいケースが多いです。そんなふうにどちらかの感情がもつれている場合は、夫婦のような親密な関係性を維持することが難しいことが多そうです(100%そうだとは言えませんが)。
まとめ
「私もOK、あなたもOK」が健康的な人間関係の鉄則です。怖がらずに向き合って、考えや想いの違いを擦り合わせることで、よりよい人間関係が築けます。そのためには、「相手と向き合ってお互いに理解し合おう」という両者の姿勢が必要です。また、自分がイライラしていると相手もイライラ・自分がニコニコしていると相手もニコニコという具合に、人間関係は自分を写す鏡になります。自分で自分の機嫌を取って、リラックスして相手と向き合うことで、相手もリラックスして話をしてくれるものと思います。