6歳の子どもの母です。子どもは体の性別は男性ですが、プリンセスになりたい、髪を伸ばしたいと言っており、もしかして性同一性障害ではと思っています。これから小学校に進学することもあり、子どもや周囲とどのように接するのがいいのでしょうか。(30代女性・6歳の子どもの母)
「自分の子どもが性のあり方に悩んでいるかも……」と思った時、どんな対応ができるのでしょうか?
今回は、性別違和を抱えている可能性のあるお子さんをもつお母さんからご相談をいただきました。
こういった場合の本人との関わり方、学校との調整の仕方、保護者の相談先などについて、性的マイノリティの子ども・若者の支援をおこなう一般社団法人にじーず代表の遠藤まめたさんにアドバイスをいただきました。
監修・話題提供
遠藤まめた
1987年埼玉県生まれ。一般社団法人にじーず代表。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。近著に「教師だから知っておきたいLGBT入門 ―すべての子どもたちの味方になるために」(ほんの森出版)。
親と本人の悩みを受け止める
――このようなお悩みに対して、まずはどのように受け止めますか?
性別違和が今後もずっと続くのか、性同一性障害なのか、という見方はいったん置いておき、その子がやりたいことができるだけやれるようにしたいし、やりたくないことをできるだけ減らしたいですね。
他の子達はみんな自分が好きな服をきて、自由に振る舞っているのに、その子だけが否定され続けている、「自分だけができない」という状況を、その子は「自分は大切にされていないんだ」と受け取ってしまう可能性があります。みんなと同じように、その子も自分らしく、のびのび過ごせる環境をできるだけ確保してほしいです。園や小学校でも「男の子はこれ、女の子はこれ」じゃなくて「みんなが好きなものを選べるように」って先生に相談して、うまく工夫できるとよいと思います。
とはいえ、親としては自由にのびのびさせてあげたいっていう気持ちがある一方で「一体周りからなんて言われるだろう」「子どもが傷つくんじゃないか」とかいろんな気持ちが渦まくんじゃないかな、とも想像します。
あとは家族の中でも認識がばらけて、お父さんは分かってるけどお母さんは分かってないとか、おばあちゃんから何か言われるとか、家庭内でもいろんなことが起こるかもしれないと思います。
周りの子から「なんで?」って聞かれるのも悩みますよね。
「どうして◯◯ちゃんは男の子なのに、女の子みたいな格好してるの?」「お姫様の絵ばっかり書いてるの?」とか聞かれます。
本人は答えようがないですし、このような質問に対する答え方に正解はないんですけど、「そんな風に聞かれたら困っちゃうよね」とか「自分はなんて思ったの」と聞いてみるとか、悩みながら本人と話していく感じになるのかなと思います。
家庭によっては「そういうこと言われたら、無視してそういうのから離れていいよ」と言っている例もありますね。
出生時に割り当てられた性別が男の子で、自分は女の子だとはっきり口にしていて、女の子として通学したいという強い希望がある場合には「女の子だ」と周囲に説明して、先生も「〜ちゃんは女の子です」「名前の呼び方が新学期から変わります。女の子として学校に通うので、前の名前ではなくて、この名前でよんでほしいです」などと周りの子に説明する場合もあります。
ーーいろんな難しさが絡み合っていると思うんですが、そもそも「自分が何なのか分からない」とか「どうしたいのか分からない」ということもありますよね。でも、それを質問され続けるのは「なんでみんなそこに興味があるの?」って本人はしんどくなりますね。
「質問されるってことは、自分はおかしいんだな」ってそこで思いますよね。
「なんでそんな絵を描いてるの?」って質問されても、別に絵を描くのに理由なんかないじゃないですか。「ドラえもんが好きだから」みたいなもので、プリンセスの絵を描くのに理由なんて何もないのに。問いかけられ続けるってことは、ものすごくその子にとって辛いことです。やっぱり「マイノリティが常に説明させられる側に立つ」みたいな状況があって。
でも小さい子の場合、遠慮なく聞いてくることも多いので、そのような悩みをもつ子から話を聞くたびに、本当にしんどいだろうなと思います。親や先生ができることは、本人がしんどいっていうことを一緒に悩んでいくってことでしょうね。
ーー学校での対応などはどうなっているのでしょうか?
子どもによって希望は違います。法律上の名前が嫌だから別の名前で通学したい、という子もいれば、名前は気にならないという子もいる。出生時の性別で通うけれど、服装については好きなもので学校に行くので見守ってほしい、着替えは1人でしたい、と希望する子もいます。以前とは違う性別で生活したい、以前は男の子として幼稚園に行っていたことは伏せて、女の子として他の子達と同じように生活したい、という希望もあります。このような要望に対して、丁寧に話を聞いて、できることを工夫してくれる学校も増えてきています。
親御さんとしては、他の家族がどのように工夫しているのかなかなか事例が分からないと思います。「学校にこんなリクエストを言ったら、変だと思われるかな」なんて不安になる親御さんもいると思いますが「自分のときには、こうやって先生に説明しました」と他の家族の話を聞くと、やはり勇気づけられたり、学んだりする部分は多いと思いようです。
私は「にじっこ」という15歳以下のLGBTやそうかもしれない子ども達と家族のグループの運営スタッフをやっているのですが、未就学の小さな子どもも、他の当事者の子に会って「初めて自分と同じ友達ができた」と嬉しそうにしている様子もありますね。
LGBT支援団体とつながる
ーー保護者や子ども本人を孤立化させないというか、1人で抱え込まずに相談ができる、他の同年代ぐらいのLGBTの子どもに会える、そういう場所と繋がることは、やっぱり解決策になるんですね。
特に家族にとってはそうですね。やっぱり話しながら涙する家族もいます。すごく頑張って「子どものために何かしたい」と肩の力が抜けなくて、一方では自身でも子どもを受け止めきれない気持ちをどこかに抱えている人もいたり。
「自分だけじゃなかったんだ」と思える経験は重要です。さらには、このような支援グループに行くと「子どもがトランスジェンダーだと決めつけられるのでは」と不安になる方もおられるのではと思いますが、実際にはむしろ逆です。性同一性障害なのか、この子が今後もずっと性別違和を抱えていくのか、男の子なのか女の子なのかノンバイナリーなのか、ということは置いておいて、性別関係なくのびのび過ごせる場所であることを重要にしています。プリンセスの絵を描いている子に対して、男だとか女だとか言う人は私達のスタッフの中にはいません。いちいち何者なのかを聞かれたり、ジャッジされたりすることなしに、他の子ども達と遊べる時間自体が大切なんだ、というコンセプトでやっています。
ーー繋がることのできる支援団体としては、どんなところがありますか。
「NPO法人 LGBTの家族と友人をつなぐ会」や「特定非営利活動法人 SHIP」、私が運営に関わっている「にじっこ」などは他の家族に出会う場を提供しています。「特定非営利活動法人 ASTA」は「みんなの保護者会」というオンラインで保護者が交流できる場を設けています。
10代以上の子どもが、自分の意思で「友達がほしい」と言っている場合には「一般社団法人 にじーず」は札幌から岡山まで全国さまざまな場所で、LGBTやそうかもしれないユース向けの居場所を開催しています。特にセクシュアリティや性別を決めつけられずに遊んだり話したりできる場所で、保護者の方はご参加いただけないのですが、研修を受けたスタッフが安全な場を作っています。
こういう団体を見つけるのは、インターネットでの検索が多いですね。あとスクールカウンセラーとか、養護教諭の先生が知っている場合もあります。
お子さんの心配もそうですが、やっぱり当事者の家族に孤立しないでほしいですね。地方とか都会とか、場所によって使える社会資源が違ったり、行ける場所が限られたりすると思うので、なるべく情報をたくさん並べられるといいですね。
学校でのカミングアウト
ーー学校の先生から「当事者の生徒が『カミングアウトしたい、みんなに知ってほしい』と言っていて、それをまず学校全体でどう共有するのか、進め方が分からなくて困っている」と相談されることがあるんですが、アドバイスはありますか。
「みんなに知ってほしい」要望は結構ありますが、たしかにリスクという意味では気になりますよね。子どもがカミングアウトのイメージがついていなくて、0か100かみたいに、言うならもう全員に言うしかない、という切羽詰まった思いになっている場合もときどき見受けられます。このような場合、私は「まずは仲のいい3人に話してみて、それで様子を見たら」と話すことがあります。
たとえば部活の3人とか同級生の3人とか「ひどいことを言う人がいても、この人達は絶対大丈夫だから」ぐらいに仲のいい人を選んでカミングアウトする。そこで本人としては安心できて「しばらく言わなくていい」みたいになることもあれば、やっぱり全員に言いたいと思っている場合もある。全員に言うにしても、しっかり味方を作ってからのカミングアウトになるので、いきなり全員に言うよりは本人の負担も減ります。分かってくれない人が出てきて悔しくても、その3人がいてくれたら違うと思うのです。
制服が変わるとか、周りと違う振る舞いをする場合には、みんなに理由を言わなくてはいけないのではと感じる子もいますね。この場合も、内容によると思うんです。1人で着替えたい、というときに理由を全部言う必要はありません。聞かれても「言いたくない」という権利もあります。制服のように分かりやすい変化でも、仲のいい人だけ分かっていれば、隣のクラスの話したこともない人に事情を言わなくてもいい、という考えもあるかもしれない。「言いたい」なのか「言わなきゃいけないと思っている」なのか。後者なら、言わなくてもいい場面も含まれるのではと思います。
ーーカミングアウトも1回で終わるものじゃなくて、少しずつやっていってもいいし、100%カミングアウトしきらなくてもいい。すごくもっと多面的なものっていうことがもうちょっと広まるといいですね。
最近出した『教師だから知っておきたいLGBT入門』(ほんの森出版)にも紹介した事例ですが、ある高校で1人の生徒がスカートから学ランに制服を変えたんですね。その子は最初は「制服を変えたら絶対いろいろ聞かれるから」と考えて全校生徒へのカミングアウトを希望していましたが、相談していく中で、方針が変わっていきました。まずは数人の親友にカミングアウトして、クラスの中ではみんなに事情を説明して、同級生以外の人は放っておくことになりました。同級生がもし「あいつなんで制服変わったの」と聞かれたら、友達の口から説明してもらってよい、という方針で。制服を変えた直後はやはり周りの目が気になったそうですが、しばらくしたら周りも慣れていきました。本人の負担を減らすような、さまざまな方法があります。
ーー制服を変えるという例をいくつか挙げていただいたんですが、制服にとどまらず、トイレをどうするかとか、更衣室やプールをどうするかとか、そういった場合の方がハードルが高いのかなと思うんですが、いかがでしょうか。
学校によります。そもそも以前の性別を周りの子には明かしていない状況で過ごしている場合もあります。そんな場合、1人だけ多目的トイレを使うとなると、却って目立ちますよね。着替えについても、本人の希望として1人で着替えたいという子もいれば、体操服を下に着て登校しているから大丈夫とか、体が見えないように着替えるのが上手で問題ないとか、いろんな場合があります。更衣室の中に、試着室のようなブースを何点か導入した学校もあります。トランスジェンダー に限らず、肌を見せたくないと考える人はいるでしょうから、いいやり方だと思います。
性自認に沿ったトイレ利用はだめ、という学校の場合には、わざわざクラスから離れたところにある「だれでもトイレ」などを使うことになって不便です。「だれでもトイレ」を使いたいという子もいれば、自分が他の子とは違うんだということを突きつけられるようで嫌だという子もいる。「だれでもトイレ」を使うように言われたトランスジェンダーの女の子を、同級生が「こっちでいいよ!」と手をひいて女子トイレに連れて行ったなんて事例も聞きます。先生としても最初は前例がなくて戸惑っていても、結局は問題が起きないことが分かって「まぁいいでしょう」となっていったり。
悩ましいのは宿泊ですね。修学旅行とか、お風呂は1人で入ってもいいんだけど、寝る部屋は他の友達と引き離されて「修学旅行で1人」という別室扱いになる事例を聞きます。
学校としては他の保護者がどう思うかを気にするようで、事情を話した上で保護者が「いいよ」と言うならその子達で班を作るとか、そういう条件を出されて困ったという家族もいます。普段いわゆる「埋没」、トランスジェンダーだと明かさずに生活している子の場合には、修学旅行のためにカミングアウトを強いられるような状況になるわけで、かなり問題があるように感じます。トランスジェンダーの子ども達もそうではない子ども達と同じように「お友達と夜まで話して楽しかったよ」という経験ができるように、それが当たり前の社会に早く変わってほしいですね。
子どもが性別違和を抱えている可能性がある場合の本人との関わり方、学校との調整の仕方、保護者の相談先などについて、関わり方を教えていただきました。
子どもがどういったジェンダーやセクシュアリティだったとしても、できるだけやりたいことがやれるように、親や学校が本人ともコミュニケーションをとりつつ対応を考えていきたいものですね。
〇ライタープロフィール
きのコ
群馬を中心に多拠点生活をする文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療や子宮筋腫による月経困難症をきっかけに、女性の身体との向き合い方に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。