子どもに「LGBT」をどう伝える?【後編】

さまざまな性的マイノリティのうち、代表的な「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー」の4つの頭文字をとった総称「LGBT」。
前回は、さまざまな性のあり方やその伝え方について、一般社団法人にじーず代表の遠藤まめたさんにお伺いしました。
そして、子どもがもし「ホモ」「オカマ」などと発言していたら、皆さんだったらどう反応しますか?
今回はLGBTについて子どもに話し始めるきっかけや、もし差別的な発言をした場合の対応についてお話しいただきました。


遠藤まめた

1987年埼玉県生まれ。一般社団法人にじーず代表。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。近著に「教師だから知っておきたいLGBT入門 ―すべての子どもたちの味方になるために」(ほんの森出版)。

子どもに話し始めるきっかけ

ーーLGBTについて子どもに教える時に、話し始めるきっかけはどうすればいいか、お伺いしたいです。

最近すごくいい絵本がたくさん出ているんです。

たとえば子どもでも読んで分かるものが「いろいろいろんなかぞくのほん」。

これはLGBTのことだけじゃないんですけど、いろんな人種の家族とか、兄弟がたくさんいる家族とか、すごく人数の少ない家族もいるし、どんなペットを飼ってるかも家族によって違うし、パパとママとか、ママとおじいちゃんだったりとか、いろんな家族がいるんですね。誰々ちゃんちは猫を飼ってて、カメレオンを飼ってる家族もいる、みたいな。庭でひたすらプールで遊んでる家もあれば、休みのたびにすごい旅行をしてる家もあったりします。

家族ってその多様性について考える上では子どもにとって身近なものです。そうやって楽しみながら「人は家族によって違う」ということを学べる本なんですが、その中に性の多様性というのも自然に入っています。

あとは「ジュリアンはマーメイド」という、これもすごく美しい本です。

ジュリアンという男の子が人魚に魅せられて「人魚になりたい」という物語なんです。

幼稚園とか保育園で、小さい子は「男はこうだよ」「女はこうだよ」とか「男はこうしなきゃいけない」って学んで帰ってきちゃうじゃないですか。そういう子にとっては「男の子なのに人魚になりたくて、こんなヒラヒラした服着るの?」と思うかもしれない。

けれどもジュリアンの世界では、おばあちゃんがすごくそれを受け止めて、ジュリアンとみんなが一緒に人魚になるんですよね。

すごくいいオーラと言うか、いいメッセージと言うか「こういうのもいいね」って読んでいる子も嬉しくなるような綺麗な絵本です。こういう絵本を使うと、性の多様性について肯定的な感じ方、自分ごととして、自分らしく生きることのよさについて肯定的に受け止めやすいと思いますね。

小学校の低学年にオススメしたいものとしては、小学校の先生が作った絵本の「りつとにじのたね」。

可愛いものが好きなくまの男の子「りつ」の話です。表紙のイラストでも赤いスカートを履いています。

でも周りからは「おかしいよ」と言われていじめられて、泣きながらくまの国を飛び出すんですね。

そしていろんな国を旅していくという話だけど、これも人と違っているということについてすごく考えさせられる、めちゃくちゃいい絵本です。

直接「LGBTとは」と言ってるわけじゃないんですが「ジュリアンはマーメイド」にせよ「りつとにじのたね」にせよ、子どもたちにとって最初はおそらくは違和感から入るんだけれども「でも、そうじゃないのかも」となっていくんです。

ジュリアンの話は直感的に「こういうのいいね」ってなるし、りつの話は、他人と違ってるということが悪いことではなくて、実は違っているからこそ他の子にはできないことができる、ということが最後に分かっていくんじゃないでしょうか。

共通しているのは、LGBTの人がいるとかマイノリティの人がいるというんじゃなくて「自分が好きなことをしたり、人と違っていたりすることは悪いことじゃないんだ」と子どもたちが学べるメッセージがあるということです。性の多様性とかLGBTについて学ぶというより、性の多様性というテーマを使いながら「人と違っていることをどう受け止めて大切にしていくか」を学んでいく、というアプローチを勧めます。

子どもが「ホモ」「オカマ」などの差別的な発言をしたら

ーー子どもが「ホモ」「オカマ」などの差別的な発言をした場合、どう話すのがいいでしょうか?

どこかでたとえば「ホモ」「オカマ」という言葉を覚えてきたりするわけですよね。そういう言葉を使った時に「それどういう意味?」とか、もし馬鹿にしてるニュアンスがあったとしたら「同性を好きになる人、パパとかママの友達にもいるよ」とかね。そういう気になる発言があった時に、一緒に考えられるといいかもしれない。

「バカ」とか「ブス」みたいな感じで、言葉のレパートリーの中に入ってきてしまうんですよ。悪口の1つとして覚えて帰ってきたりする。

その時に「そう言われたらどういう気持ちになると思う?」とか「あなただって『男らしくしなさい』『女らしくしなさい』とか『それは変だよ』と言われたら嫌でしょ?」みたいに、立ち止まって考えてもらうよう促せたらいいですね。

保育園とか幼稚園とか行って帰ってくると「お母さん、ピンクは女の子の色なんだよ」と子どもが言ったりする。その時に「でも男の子だってピンク着るよね」と話してみるとか、日々の会話の中で一緒に考えていけるといいですね。

ーーテレビや雑誌などで見かける差別用語など、外から来てしまった情報にどう対応していくか、難しさがありますね。

しかもたとえば、家でもおじいちゃんがそういう差別用語を使ってしまってたり、家族側も一枚岩とは限らないんですよね。外から差別用語を覚えてきてしまった時にどうするかが、非常に悩ましいと思います。

「”女の子はピンク”とは限らないよ」と言ってても、お店に行ったらピンクの女の子グッズが並んでるじゃないですか。子どもが差別用語を使っている背後には大人がいるし、覚えてくる偏見は社会の反映です。

子どもの年齢にもよるでしょうが、大人も間違えることがある、社会もまだたくさんの決めつけがあって変わろうとしている最中だ、ということを一緒に考えられたらいいですね。


遠藤まめたさんに、子どもに「LGBT」について伝える方法について絵本などを参考に分かりやすく教えていただきました。

子どもたちにLGBTやマイノリティーについて教えると共に「人と違っていることをどう受け止めて大切にしていくか」について、親子で一緒に考えていきたいものですね。

〇ライタープロフィール
きのコ
群馬を中心に多拠点生活をする文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療や子宮筋腫による月経困難症をきっかけに、女性の身体との向き合い方に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。

この記事を書いた人

ツキとナミ運営事務局

この作者の記事一覧

同じカテゴリー の他の記事

  1. パートナーとのすれ違い、なぜ起こる?どう対策する?

    夫婦のよくある悩みに、「パートナーとのすれ違い」があります。すれ違いはどうして起こるのか、回避するにはどうすればいいのか、こんなすれ違いの場合はどう考えて対応したらいいの?をまとめました。 執筆 柳田正芳 「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。プロフィールサイトはこちら 夫婦がすれ違う原因の多くは、お互いに思っていることのすり合わせ不足 私は、「夫婦のコミュニケーション」について考えるワークショップの講師として、もうすぐ子どもが生まれてくるというタイミングに差し掛かった夫婦延べ1,000組以上と会い、話を聴いてきました。 多くの夫婦との出会いを通じて感じていたことがあります。それは、よくある夫婦のすれ違いの原因は、お互いの思っていること・考

    もっと読む
    2023年 01月27日
    #コミュニケーション
  2. もし子どもがLGBTかも?と思った時には?

    6歳の子どもの母です。子どもは体の性別は男性ですが、プリンセスになりたい、髪を伸ばしたいと言っており、もしかして性同一性障害ではと思っています。これから小学校に進学することもあり、子どもや周囲とどのように接するのがいいのでしょうか。(30代女性・6歳の子どもの母) 「自分の子どもが性のあり方に悩んでいるかも……」と思った時、どんな対応ができるのでしょうか?今回は、性別違和を抱えている可能性のあるお子さんをもつお母さんからご相談をいただきました。こういった場合の本人との関わり方、学校との調整の仕方、保護者の相談先などについて、性的マイノリティの子ども・若者の支援をおこなう一般社団法人にじーず代表の遠藤まめたさんにアドバイスをいただきました。 監修・話題提供 遠藤まめた 1987年埼玉県生まれ。一般社団法人にじーず代表。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。近著に「教師だから知っておきたいLGBT入門 ―すべての子どもたちの味方になるために」(ほんの森出版)。 親と本人の悩みを受け止める

    もっと読む
    2023年 01月13日
    #コミュニケーション
  3. 子どもに「LGBT」をどう伝える?【前編】

    最近「LGBT(いわゆる性的マイノリティ)」や「性の多様性」について、ニュースやドラマ等を通して知る機会も増えてきたのではないでしょうか。子どもが成長していく時には、その子自身の性のあり方はもちろん、他人も尊重することについて、LGBTに関する正しい知識と共に伝えていきたいものですよね。今回は子どもに「LGBT」について伝える方法について、一般社団法人にじーず代表の遠藤まめたさんにお聞きしました。後編では、子どもに話し始めるきっかけについて考えます。 遠藤まめた 1987年埼玉県生まれ。一般社団法人にじーず代表。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。近著に「教師だから知っておきたいLGBT入門 ―すべての子どもたちの味方になるために」(ほんの森出版)。 多様な性のあり方とは ーーまず、LGBTについて、子どもにどう説明したらいいでしょうか? 人間の性のあり方は4つの要素の組み合わせによって作られています。

    もっと読む
    2022年 12月09日
    #コミュニケーション
  4. 男の子の子育て!ジェンダー平等の意識を育むには?

    世界146ヵ国中116位。日本のジェンダーギャップ(男女格差)は「先進国の中で最低レベル」「アジアの中でも順位が低い」ということが、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数2022」から見て取れます。 「わが子が大きくなる頃には、男女の格差が改善していてほしい」と思う方は少なくないと思います。男女の格差を生み出す(また、許容する)社会環境は、ひとりひとりの心がけ次第でいい方向に変えていけるはずです。男女の格差に敏感で、そういうものにNOと言えるようにわが子を育てるにはどうすればいいのでしょうか?文筆家の清田隆之さんに聞きました。 監修・話題提供 清田隆之 文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。「恋愛とジェンダー」をテーマに様々な媒体で執筆。著書に『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)など。新刊『どうして男はそうなんだろうか会議――いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』(澁谷知美さんとの共編著/筑摩書房)が発売中。Twitter→@momoyama_radio 編集部から「ジェンダー」とは、文化的・社会的な性差を指します。社会の中で取り決められた「男性・女性とはこういうもの」と期待される役割分担意識や差異を言います。例えば、「男性は家庭の外で働いてお金を稼いで家族を養うもの

    もっと読む
    2022年 12月02日
    #コミュニケーション
  5. SNS時代に男性が抱える生きづらさとは?

    これまで、可視化されることや、気に留められることがほとんどなかった「男性の生きづらさ」。SNSでも男女間の不平等や格差の話題において、「女性のほうが不利な立場に置かれているのだから、男性の生きづらさなんてないでしょう」という見方もありますが、男性が自らの生きづらさに向き合うことで、男女の不平等や格差の解決への一歩になるのではないかという考えもあるようです。文筆家の清田隆之さんに伺いました。 監修・話題提供 清田隆之 文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。「恋愛とジェンダー」をテーマに様々な媒体で執筆。著書に『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)など。新刊『どうして男はそうなんだろうか会議――いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』(澁谷知美さんとの共編著/筑摩書房)が発売中。Twitter→@momoyama_radio 昔からあった問題がSNSにより注目されやすくなってきた ――男性が女性に対して差別的なことを言って炎上したり問題になったりすることが少なくないように思うのですが、最近の事例や傾向などはあるでしょうか? 昨

    もっと読む
    2022年 11月28日
    #コミュニケーション
  6. 読むからだケア:大人の女性へのおすすめ書籍

    子育てや仕事で自分のケアが二の次になってしまったり、月経トラブルや更年期など年齢と共に体調の変化を迎える大人の女性は、心身の調子が優れずにモヤモヤすることもあるのではないでしょうか。 今回は、そんな不調に悩む大人の女性が学びたい、読書の秋におすすめの書籍を4冊紹介します。 『医者が教える 女体大全――オトナ女子の不調に効く! 自分のカラダの「取扱説明書」』宋美玄(ダイヤモンド社) https://www.amazon.co.jp/gp/product/447811093X/ref=ewc_pr_img_2?smid=AN1VRQENFRJN5&psc=1 産婦人科医としてクリニックを開業している宋美玄さんが、働くオトナ女子からよく投げかけられる質問について、医学的に正しい解決策を伝える本です。「生理痛にはあたためるのが一番」「恋愛してないと女性ホルモンが枯渇する」「仕事をしすぎると"オス化"する」… 生理、ホルモン、子宮、妊活など、女性の健康や美容にまつわるメディアの情報には、医学的に正しくないものもあふれています。それを信じて実践し、痛みや不調が治まらないどころか、知らず知らずのうちに病気を悪化させてしまう女性も少なくありません。 女性の身体は、誰のものでもなく、女性自身のもの。すべてにおいて、選択するのは自分、守るのも自分です。何が間違いで何が正しいのか、どうすれば不調や心配事が解決するのか。「女性の身体についていまの医学のわかっているほんとうのこと」だけをベースにした本書を、自分の身体について自分自身で判断するための「自分のカラダの取扱説明書」にしてみてくださいね。 『ふりまわされない!更年期――母と娘のための「女性ホルモン」対策BOOK』永田京子(旬報社)

    もっと読む
    2022年 10月29日
    #コミュニケーション
同じカテゴリー の記事をもっと読む
TOP