最近「LGBT(いわゆる性的マイノリティ)」や「性の多様性」について、ニュースやドラマ等を通して知る機会も増えてきたのではないでしょうか。
子どもが成長していく時には、その子自身の性のあり方はもちろん、他人も尊重することについて、LGBTに関する正しい知識と共に伝えていきたいものですよね。
今回は子どもに「LGBT」について伝える方法について、一般社団法人にじーず代表の遠藤まめたさんにお聞きしました。後編では、子どもに話し始めるきっかけについて考えます。
遠藤まめた
1987年埼玉県生まれ。一般社団法人にじーず代表。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。近著に「教師だから知っておきたいLGBT入門 ―すべての子どもたちの味方になるために」(ほんの森出版)。
多様な性のあり方とは
ーーまず、LGBTについて、子どもにどう説明したらいいでしょうか?
人間の性のあり方は4つの要素の組み合わせによって作られています。
4つの要素の1つ目が「生物学的な性」と言われるもので、これは外性器、内性器、遺伝子などによって決まっているものです。生物学的には大きくオスとメスの2つに分けることができます。
今日メインでお話していくのは、「性自認」と「性的指向」の話です。
「性自認」というのは、「自分がどのような性別に所属しているのか」を表すもので、自分は男性であるとか女性であるとか、あるいは男性にも女性にも所属していない感覚があるとか、さまざまなあり方があります。
もし性自認と違う性別として扱われると、人は居心地が悪くなったり、恥ずかしさを感じたり、戸惑ったりします。
「性的指向」という要素もあって、これは「どのような性別の相手に対して恋愛感情や性的な関心を抱くか」ということです。
そして「性表現」というのもあり、これは「服装とか振る舞い・仕草・性格などが、他の人から見て男っぽいか女っぽいか」ですね。他の人から見てどうかということなので、必ずしも自分で認識しているものと一致しているわけではありません。たとえば「周りは女の子の友達ばかりで、とても女の子っぽいものが好きで、体は男の子」という子がいたとして、周りから見ると非常に女の子っぽいと思われてるけど本人は別にそうとは思ってない、とかそういうことがあります。
大まかにこの4つの要素があって、この組み合わせが人によって全然違うので”性の多様性”と言ったりします。
ーー「生物学的な性」も多様なものなのでしょうか?
典型的には、性染色体がXXであれば女性、XYであれば男性と言われるんですが、性分化疾患などもあるので実際にはもっと多様です。
たとえば月経が来ない女の子がいたとして、調べてみると実は出生時から先天的に子宮がなかったとか、そういうことが分かる場合もあります。「子宮がないから女性じゃない」ということではなくて、生物学的には”子宮がない女性”といった考え方をしますね。
LGBTとは
ーー性自認と性的指向について、具体例を含めて教えてください。
LGBTって、レズビアン(Lesbian)・ゲイ(Gay)・バイセクシュアル(Bisexual)・トランスジェンダー(Transgender)という4つの言葉それぞれの頭文字を並べたものなんです。
最初のレズビアン・ゲイ・バイセクシュアルというのは、性的指向に関する話。「どんな人に対して恋愛感情や性的な関心を抱くか」を表したものです。
レズビアンは女性の同性愛者の方、ゲイは男性の同性愛者の方、バイセクシュアルは男性も女性もあるいは性別を問わず相手を好きになる方です。
最後のトランスジェンダーというのが、性自認と生まれた時の体の性、いわゆる出生時に割りあてられた性別が一致しない人のことです。多くの方は出生時に割りあてられた性別で生きていくわけですが、中には別の性別として生きていきたいと思う方もいらっしゃいます。
なので一口に「LGBT」というけれども、レズビアンの人とトランスジェンダーの人ではどういう経験をしてるのかというのは全然違うし、なかなか一括りではなくて、性的少数者といってもいろんな人がいます。
これまでの社会は異性愛が前提として作られてきたので、たとえば教科書に出てくるのは異性愛の家族が基本で、他の家族が出てくることは非常に少ないと思います。
ただ実際には異性愛だけではなくて、同性に恋愛感情や性的な感情を抱く人たちもいれば、あるいは他者に対して恋愛感情や性的な関心を抱かない方もいるし、相手が男性なのか女性なのかは重要じゃなくて優しくて眼鏡が似合う人が好きだとか、性別以外のことが大切だと思ってる人もいて、非常に多様ですね。トランスジェンダーについても同様で、性別移行を経験する人が実際にいる、生活するということについて、社会の前提としてこれまで組み込まれていなかった、制度の中でも考慮されてこなかった歴史があります。
ーーLGBTの割合というのはどれくらいでしょうか?
いろんな数字があるんですけど、少なく見つもったとしても、同性に恋愛感情や性的な感情を抱く人は、たとえば3、40人の学級に1人ぐらいはいてもおかしくないんじゃないかなという感じですね。
それに対してトランスジェンダーはもうちょっと少なくて、さまざまな調査がありますが、少なくとも1パーセントはいないだろうと言われています。大阪市民のアンケートでは、「あなたは今のご自分の性別を、出生時の性別と同じだと捉えていますか」という質問に対して、出生時の性別と今の性別認識が一致しない回答をした人が0.7%でした。さらに、生活上の性別を変更して暮らしているとか、戸籍の性別を変えたいとかとなると、割合としてはもっと少なくなってきます。
「LGBT」以外の性のあり方
ーー近年、「ノンバイナリー」という言葉が知られてきていますね。これは広い意味ではトランスジェンダーに含まれると思うのですが、そこまで入れて0.7パーセントですか?
そうです。なお大阪市のアンケートでは、トランス男性やトランス女性などバイナリーな性自認をもつトランスの人よりも、ノンバイナリーの人のほうが数が多い結果となっています。
ノンバイナリーの説明もしましょう。
トランスジェンダーと呼ばれる人の中にもいろんな方がいて、自分の性自認として男性あるいは女性の認識をはっきりもっている方もいます。一方ノンバイナリーといって、性自認がそこまではっきりしていなくて、男性でもないが女性として扱われるのもしんどいとか、男女どちらでもないとかどちらでもあるとか、自分の中での認識が移ろう人とか、男性として生きていく方がいいなと思ってる時期と、女性として生きていく方がしっくりくるなという時期を両方経験する人とか、いろんな人がいます。
あと体の違和感の感じ方も個人差がかなりあります。人生の優先順位として「お金をとにかく貯めて一刻でも早く手術をしたい」と考える人もいれば「そこまで切迫していない/ゆっくりそのことは考えよう」と思ってる人もいれば「部分的には体を変えたいと思っているけれどまずは職場とか学校できちんと自分の性自認で扱われることが1番大事」という人もいます。
ーー最近だと、性的指向について「〜セクシュアル」と「〜ロマンティック」に分けて説明されることもありますね。
「〜セクシュアル」というのは、誰と性的なことを一緒にしたいのか。「〜ロマンティック」というのは、恋愛感情の指向ですね。
性的な関心の向く相手と恋愛的な関心の向く相手が一致する人もいれば、全然一致しない人もいるので、そこをもう少し細分化するという考え方です。
なので「同性に対して性的な関心がめっちゃあるけど、ロマンティックな関心はない」みたいな人もいれば、逆の人もいたりします。「性的な関心はめっちゃあるけど、恋愛感情ってイメージ分からないんだよね」みたいな人もいたり、逆に「ロマンティックな感情はわかるけど、セックスには関心ありません」みたいな人もいたりします。
最近だと、性的な関心をもたない「Aセクシュアル」だったり、恋愛感情の指向をもたない「Aロマンティック」も認知され始めていますね。
今回の前編では、「LGBT」だけではない多様な性のあり方について、遠藤まめたさんにお伺いしました。
後編では、多様な性のあり方を子どもに話し始めるきっかけや、もし子どもが差別的な発言をしていた時の対応についてお伺いします。
〇ライタープロフィール
きのコ
群馬を中心に多拠点生活をする文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療や子宮筋腫による月経困難症をきっかけに、女性の身体との向き合い方に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。