日本初の性交痛に特化した情報メディアである「ふあんふりー」( https://fuanfree.com/ )編集長であり、デリケートゾーンケアブランド「YourSide」代表でもある、うるおいヘルスケア株式会社の小林ひろみさんに、前半ではパートナーとの向き合い方や解決策についてのヒントを3つお話しいただきました。後半では、さらに普段の生活の中で性交痛を抱える人が取り入れやすいヒント3つについて聞きました。
監修/話題提供
小林ひろみ/潤滑剤の輸入販売・メノポーズカウンセラー・性交痛メディアFuanFree編集長
15年前に潤滑剤の輸入販売を通じて出会った「性の健康」という概念。性にも健康と不健康が存在し、誰もが健康で心地よい、安心できる性生活を追求することが大切だということを学びました。この概念に触れて以来、性交痛(性行為に伴う痛み)の問題に取り組み、その解決に力を注いできました。商品で潤いを届け、ウェブメディアで情報を届け、活動団体を通じて課題を社会に届ける活動をしています。
ポイント4:きちんと「滑る」潤滑剤を選ぶ
ーー性交痛の対策として、潤滑剤を選ぶ時は何に気をつければいいですか
性行為の時の痛みの原因や対策について前半の記事では、婦人科を受診についても触れましたが、病院で診てもらっても原因が分からなかったり、痛みと付き合っていく必要があったりする時があります。そんなときに、潤滑剤は性交痛を和らげる身近で手軽なアイテムとなります。
そもそも、性交痛の時に潤滑剤を使うなら、滑りがよくないと意味がないです。潤滑というくらいですから、きちんと滑ることが大事です。それを踏まえたうえで、デザインや見た目だけで選ばないように注意が必要です。
毎日使う化粧品を選ぶ時と似ています。パッケージや価格で選んだり、試供品やミニボトルが自分の肌に合ったから使うなど、自分なりの選び方を経験していますよね。潤滑剤も同じで、いろんなものを試して最終的に自分に合うものを見つけられるのがいいと思います。
潤滑剤の場合は、特にきちんと滑って痛みを感じないか、という点の優先度を上げて選ぶことをおすすめします。
ーー商品によって様々な成分が使われていますね
成分がきちんと書いてあり、刺激など感じた時に後から調べられることが大事です。自分に合わない成分があればその成分を把握しておいて、次回は違う成分のものを使ってみるのがいいです。肌が荒れてしまった時に成分がきちんと書いてあると原因が特定できるので、そういったことができるようになります。
ーーこの成分は注意が必要というものはありますか
ボトルにある成分の記載で「ポリアクリル酸ナトリウム」が先頭のほうにきているものは、ボディ上で楽しむだけにしてください。この成分が悪いというのではなく、含有量が高いと粘度が高く、乾燥しやすいからです。乾燥するとポロポロと消しゴムのカスにようになることもあります。
ボトルを逆さにしても液体が落ちてこないような、粘度が高いものを避けてください。粘りが強い=潤滑力ではありません。サラサラしていてもよく滑るものはあります。粘るものは腟にへばりついてしまう可能性がありますので、腟内に入るような使い方はおすすめできません。
ーー潤滑剤を使う時の注意点はありますか
潤滑剤は手に取って使いますよね。その手に雑菌がついていれば、潤滑剤にもついてしまいます。雑菌が付いた潤滑剤が腟に入れば、中で雑菌が増殖する可能性がでてきます。そのため、使う前には手洗いすることが大切です。
また、粘りが強いものだと腟内に残る可能性が高いので、腟の中に停滞する期間が長ければ、(膣炎など)炎症を起こしやすいです。
なので、少量でよく滑って粘りが強くないもの、 大量に使わないものが性交痛の人には最適だと私は考えています。
また、開封後だいたい半年くらいで使い切ってください。
ポイント5:挿入以外でのコミュニケーションの楽しみ方を探す
ーー性交痛があって挿入が難しい場合に、工夫できることはありますか
男性向けのマスターベーション用グッズも、「今日は挿入したくない」と思ったら、ふたりでそれを活用して楽しむということもできます。腟への挿入の代わりにグッズを使い、それ以外に存分にタッチングを楽しむということもできると思います。
グッズを使うというのが思いつきやすいですが、それ以外にもたくさんあります。
例えば、「性感帯は全身にあるから、それを見つけるだけでもすごく時間が必要なので楽しめる」とアドバイスをくれた性に関する発信をするライターさんもいます。
楽しみ方はそれぞれですが、「ふあんふりー」でも様々な専門家やライターの方のコラムをご紹介していますので、そういったものを参考にしながら創意工夫できるといいですね。セックスを楽しく心地よく過ごすための情報を得られることを知ってほしいです。
ポイント6:リラックスできる環境
ーー他にはどんな点が大切でしょうか
安心してリラックスできる環境の用意も大事です。
例えば、家族と同居している彼のお部屋で「家族の人が入ってくるかもしれない」という不安を感じる場面を想像してみてください。スリルがあっていいと思う人もいるとは思いますが、そうではない人もいます。そういう人は、リラックスできないし気持ちよくありません。そんな状況で身体を触られても楽しくないですし、なかなか濡れないということにもつながります。すると身体が緊張してこわばって痛みが出ます。
痛みのないセックスには、安心安全な環境が不可欠です。お互いの安心・安全につながる要素やシチュエーションは何かを考えるのも、ヒントになると思います。
性生活の豊かさは普段の生活の幸福感にもつながる
ーー最後に、読者の方に一言お願いします
性交痛を抱える人の中には、痛い状況をとにかく抜け出したいという思いがメインになってしまう人が少なくありません。痛くないことはもちろん大事ですが、セックスはお互いに喜びを分かち合うコミュニケーションだという大前提を改めて強調したいと思います。
性生活の豊かさは普段の生活の幸福感とつながってくるので、「痛くなければいい」という考え方で終わらず、喜びにつながるセックスという視点を持てるといいのではと思います。そこに至るプロセスのひとつとして、痛みをクリアしていくっていうふうに考えられたら、性交痛との向き合い方が変わって、人生もさらに素晴らしいものになるのではないでしょうか。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
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