世代を問わず、多くの人が悩んでいる性交痛。その解決には、パートナーと対策をしたり、専門家に診てもらうなど、様々な観点から対策が考えらえます。日本初の性交痛に特化した情報メディアである「ふあんふりー」( https://fuanfree.com/ )編集長であり、デリケートゾーンケアブランド「YourSide」代表でもある、うるおいヘルスケア株式会社の小林ひろみさんに、パートナーと共に性交痛に向き合う6つのヒントについてお話を聞きました。
監修/話題提供
小林ひろみ/潤滑剤の輸入販売・メノポーズカウンセラー・性交痛メディアFuanFree編集長
15年前に潤滑剤の輸入販売を通じて出会った「性の健康」という概念。性にも健康と不健康が存在し、誰もが健康で心地よい、安心できる性生活を追求することが大切だということを学びました。この概念に触れて以来、性交痛(性行為に伴う痛み)の問題に取り組み、その解決に力を注いできました。商品で潤いを届け、ウェブメディアで情報を届け、活動団体を通じて課題を社会に届ける活動をしています。
ポイント1:パートナーに率直に切り出す
ーー性交痛を抱えている人は、パートナーに打ち明けた方がよいのでしょうか?
はい。性交痛を抱えたままの性生活が喜びをもたらすのかと考えると、お互いに後味が悪く、幸せな関係性とは程遠いように思います。ならば痛みを解決したいと双方が思うのは自然なことではないでしょうか。
実際、性交痛の情報サイト「ふあんふりー」には男性の訪問者も多く、痛みを解決したいと考える男性も多くいることを感じます。
ーーその一方で、パートナーに切り出しづらいと感じる方も多いのではないでしょうか?
これまで性について話してこなかった関係性なら特に、本当に難しいと思います。パートナーに「痛い」と言い出しづらい気持ちを持つ人が少なくありません。
相手が行為中に一生懸命頑張ってる姿を見て、このまま中断させたら申し訳ないと感じてそのまま続けてしまう女性もいます。
しかし性的なコミュニケーションは本来、対等な立場で一緒に行うものであり、どちらかが一方的にリードするものではないはずです。しかし、現状では女性が男性の欲求に応じる行為という意識が双方に根底に存在しているように思います。
そうすると、女性が我慢する流れになりやすく、「私さえ我慢すればいい」と思ってしまう女性と、「痛そうな顔をしているけれど、ちょっとだけだからいいか」という男性という関係性になりやすいです。
ーー女性側に我慢が集中してしまうんですね。痛みを解決したいと思った時にどんなことをすればいいですか?
「相手が気を悪くするから…」といった遠慮をせず、普段の会話で率直に痛いことを伝えることが大事です。痛みを抱えている人は言いづらいと思いますが、相手にも一緒に考えて何とかしたい気持ちがあるかもしれない/可能性があることに気付いてほしいです。
まずは普段の会話の時から自分の気持ちを伝える練習をするといいと思います。コミュニケーションはトライ&エラーでうまくなりますので、失敗にめげないことも大事です。そのためには日頃から言いづらいことも言い合える関係性かが問われますし、そういう関係性がなければセックスもうまくいかないのではと思います。普段から言いたいことを伝えられる関係性かどうか冷静に考えたいところです。
ーーこれまでの痛みがあった時の経験を振り返ることも大事なのですか?
はい、特に次のようなことを振り返りたいですね。
- コンドームや潤滑剤が自分に合っていたか
- 特定の体位で痛みが出なかったか
- 相手のタッチが手荒じゃなかったか
- 身体に負担がかかってなかったか
- 摩擦で外陰部の皮膚や粘膜がヒリヒリしてなかったか
- 早すぎるタイミングでの挿入ではなかったか
潤滑剤も性交痛を和らげる一つの選択肢ですが、女性はたとえ濡れていても性的興奮が十分ではないと、相手を受け入れる準備ができておらず、痛みにつながることがあります。そのため、挿入のタイミングはとても大切です。何度も何度も性的な刺激を繰り返して性的興奮が十分に高まって初めて、心地よい挿入に至るということがもっと理解されてほしいと思います。
ポイント2:婦人科を受診する
ーーいま、パートナーとのコミュニケーションについて教えてもらいましたが、実際に痛みがある時には医療にかかることも大切だと思います。病院の探し方や専門家との巡り合い方や見分け方について教えてもらえますか?
性交時の痛みは病気や炎症を教えてくれる大事なサインのことがあります。ファーストステップは婦人科の受診です。第一に自分が行きやすい婦人科がいいです。産科があると恥ずかしい、妊婦さんがいるから嫌という場合、婦人科やレディースクリニックで相談するといいでしょう。自分が行きやすいと思う病院、行きやすい地域やロケーションの病院を受診することをオススメします。
ーー婦人科に行った際の注意点などはありますか?
性交時に痛みがあることを必ず伝えてください。その情報があると診察や内診の時にも診る内容が変わります。口で言いづらければ問診票に書いてもいいです。情報が伝われば、診察するときに留意して診てくれると思います。
子宮頸がん、子宮内膜症や性感染症、骨盤内の炎症や先天的な構造など、性行為中の痛みが教えてくれる病気は様々にあります。医師に性交痛があることを伝えて診察してもらうと、こういった病気を早期に発見できる場合もあります。
ーー婦人科にいけば解決することが多いのでしょうか?
性交痛の患者さんを多く診ているある婦人科の先生が言っていましたが、複数の婦人科の先生から「異常はない。病気ではない」と言われるだけだったり、「セックスが痛いならしなければいい」「我慢が足りない、気合で乗り越えて」などと言われたりし続けて、つらい気持ちを抱えて最後にその先生の所にたどり着く患者さんもいるそうです。痛みに親身になってくれる先生は必ずしも多くはないという現実は残念ながらあるそうです。
ただし、病気や炎症は一般の婦人科での診察で発見できます。痛みには親身になってもらえなくても、身体の状態を確認して病気を診てもらうと割り切って考えるというのも一つです。
病院で特に異常がなかった、完治したけどなぜかまだ痛みがある、または体質や病気で多少の痛みと付き合っていかなければならない場合もあります。
ポイント3:自分の身体と心に向き合う
まずは自分の身体に自分で触れてみる
ーー痛みはあるのに身体的な原因ではないと言われた場合、どんな原因が考えられるのでしょうか
不安が痛みにつながっていることもあります。先ほどの性交痛を多く診てきたその婦人科医の方によると、内診する際に、先生が触れる前にもう身体をくねらせて「痛い」と言う方もいらっしゃるそうです。そういう時は、家で鏡で自分の性器を見てみたり、タッチしてみたりすると、少しずつ抵抗感や恐怖心が薄れて内診ができるようになる事例が多いそうです。
性行為の時にパートナーに触られる場面でも同様のことはあり得ると思います。自分の身体への理解を深めることが大事で、そのためには鏡を見て自分で触れるようになることは意外と効果的なんです。
ーー相手との関係性と同様に、自分の身体に向き合うことも重要なのですね
続く後編では、グッズや様々なコミュニケーションの工夫について、残り3つのヒントを解説いただきます。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
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