小学生の子どもにタブレットを貸していたら、インターネットの検索・閲覧履歴にアダルトサイトを発見しました。正直ショックで見てほしくないという気持ちと、どこまで子どものプライベートに踏み込んで伝えるべきか、悩んでいます。(30代女性・小4の子どもの母)
「子どもがパソコンやタブレット、スマホでアダルトコンテンツを見ていた!どうしよう!」親世代が子どもだった時代には無かったお悩みです。デジタルネイティブ世代の子どもと、「ネットに溢れる性情報との付き合い方」についてどう話せばいいか、性教育コンテンツ制作ユニット・アクロストンさんにお聞きしました。
監修・話題提供
アクロストン
妻・夫である2人の医師による性教育コンテンツ制作ユニット。楽しく性について学べる授業やワークショップを日本各地で開催。家庭ではじめられる性教育のヒントや性に関する社会問題についてなどをSNSで発信している。
著書:10歳からのカラダ・性・ココロのいろいろブック(ほるぷ出版)、3から9歳ではじめるアクロストン式 「赤ちゃんってどうやってできるの?」、いま、子どもに伝えたい性のQ&A(主婦の友社)など
「閲覧履歴は親も見る」とルール化することが大事
ーーご相談の内容についてどのように感じましたか?
今回のご相談は子どもにタブレットを「貸していたら」ですが、「貸していたら」なのか、「タブレットが子どものもの」なのか、によって話が変わります。
タブレットを貸している場合は、タブレットは親のものなので、閲覧履歴を見つけてしまっても構わないです。
子どもに話す時にも「この間貸した時にこういうのを見ていた履歴を見つけてしまったんだけど」と切り出せます。
一方でタブレットが子どものものの場合は、閲覧履歴を見る時点で子どものプライベートに踏みこむことになります。つまり、その子の境界線(バウンダリー)を超えることになるのです。
そういう場合は、「ニュースで『アダルトコンテンツを小学生が見ていてやばい』という特集をやっていたんだけど、知ってる?」と一般的な出来事として切り出すやり方があります。
タブレットを子どものものとして渡す場合、最初に渡す時に「閲覧履歴は見るからね」とルールを決めてしまうことも有効です。この時、小学中学年以降だったら「アダルトコンテンツというものがあるんだよ」と話してしまうことがいいきっかけにもなります。わが家では、タブレットは子どものものですが、最初から「何かあったら見ますよ」といって子どもに渡しています。
ーー子ども達がアダルトコンテンツを見てしまうきっかけにはどのようなものがありますか?
見るきっかけは色々です。
・検索している
・他のものを調べていた時に広告で出てきてそれを踏む
・YouTubeの動画を観ていて後半にそういったコンテンツが出てくる
・YouTubeの検索急上昇でよく出てくる
・高校生の知り合いにアダルトコンテンツを見せられる
などは実際に聞いたことのある事例です。
「一緒に学んでいきたい」という親の態度が大切
ーー子どものアダルトコンテンツ視聴が分かった時、親としてどういう反応をしたほうがいいのでしょうか?
頭ごなしに叱ることはしないほうがいいです。
子どもは怒られると思い、どんどん隠すようになります。
「知ってしまったので話がしたい」と伝えるといいと思います。
タブレットなどの機器を貸していた場合は「履歴にこういうのがあるのを見てしまった」とストレートに言っていいです。
機器が子どものものであった場合は、先ほども言いましたが、「最近小学生がこういうのを見ていると聞いたんだけど。テレビでやってたんだけど。ちょっと心配なんだけど」という形で、よその事例を装って話を切り出すと聞いてもらいやすいと思います。
話を切り出した際にこども側から拒絶の反応が返ってくることもあります。 あまり追いかけすぎるのもよくないのですが、「心配だから話したい」「怒りたいわけではなく、心配なだけ」「私たちのころにはタブレットがなかったから分からないこともある」と、分からないことを開示したうえで、「だから一緒に考えたい」「一緒に学んでいきたい」と伝えるといいでしょう。それを伝えたうえでも拒絶感があるようなら、その場は一度引いてまたのチャンスをねらいます。
ーーこうした場面に出くわすと、焦りからつい反射的に怒ってしまう親御さんも少なくないように思います。どうすればいいでしょうか?
一刻も早く子どもに話したい気持ちがあると思いますが、どういうふうに話したら自分も冷静に話せるか、数日かけていいので、考えるのもいいと思います。パートナーに相談できるなら相談してもいいです。性のことに限らず、反射的にやると余計な一言を言ってしまうことがあります。自分が冷静に話せるようにシミュレーションしてから話すといいです。
また、子どもに期待しないことも大切です。 「こういうふうに言ったら子どもはこう分かってくれるだろう」など期待をすると、その期待と子どもの実際の反応がずれた時に焦ってしまいます。焦ると余計なことを言ってしまうこともあります。子どもがどういう態度を取るかに期待しないことも大事です。
ーー少し角度の違う質問になりますが、なぜアダルトコンテンツを観てはいけないのか、どう説明したら子どもたちは理解してくれるでしょうか?
最初に伝えるのは、「観ちゃいけない」ではなく「あれは嘘の動画なんだよ」ということです。
「リアルな話ではなく、大人がお金をかけてみんなが観たくなるように作っている嘘の動画で、暴力的な内容が多いんだ」
「本当のセックスは暴力的なのは絶対にいけないんだけど、この動画ではすごく過激だったり暴力的だったりして、この動画を観て真似して性行為をしちゃう人がいることが問題になっているんだ」
ということを学校の講演では伝えています。
学校では小芝居もやっています。
『暴力的なエッチな動画』といっても『暴力的なエッチ』というのが分からないと思うので、暴力を殴るに置き換えて説明するねと話して、
Aさん「殴ってもいい?」
Bさん「え、嫌だ」
Aさん「わかった、じゃあ殴るね」
Bさん「止めてよ~!」 とAさんがBさんを殴っちゃうんだけど、最終的になぜか仲良しになる、っていう話なんだよというと、子どもたちからは「ありえね~!」という反応が返ってきます。
その後、「アダルトコンテンツの中では、今の殴るという行為がエッチなことに置き換わります。作り込まれたアダルトコンテンツを何回も観ていると『あぁ、やりたいなー。やってもいいのかなー』と思うようになってしまうかもしれない。なので、子どもに観せてはいけないというルールがあるんだ、 と話しています。
父親にもできることがある
ーー今回のご相談は小学校4年生のお子さんを持つお母さんからのものですが、お父さんができることはありますか?
お母さんと話し合いながら一緒に考えることですね。子どもにどう話すかを考える時に、ひとりで考えるより二人で考えたほうが良い考えが出ます。話し方の練習もできます。
また、お父さんとお母さん、どちらが話すとうまくいくのかも相談したいところです。子どもの性別が男の子ならお父さんが話したほうがいい、女の子ならお母さんから話したほうがいいと考える方もいらっしゃるのですが、性別よりも人間的な相性を見たほうがいいと思います。
例えばわが家の子ども達は、YouTubeなどの動画ネタはパパと話しますが、学校の勉強ネタなど相談の必要な事柄はママに話します。親の得手不得手のようなものを子ども自身が生活の中で把握して、「この分野はどっちに話しやすいか」という認識が段々と出来上がっていくものです。
ーーお父さんと協力して進める際にはどんなことに気を付けたらよいでしょうか
男性のほうがアダルトコンテンツに対して許容度が高いケースが多いです。
「むしろ、子どももいつか観たほうがいい」
「規制せずに自然に観たほうがいい」
という考えの人もまだまだいらっしゃると思います。
アダルトコンテンツの話を「やばいと思うから子どもに話そうと思う」と伝えたら、「いや、いいんじゃないの」とパートナーから言われる可能性もあります。 その場合はこの記事を見せたり、こういう悪影響があるんだよと話すことが必要かなと思います。子どもへの注意をしてもらうことはできないとしても、アダルトコンテンツを観ることを推奨するような発言をしないようにくぎを刺すことは大事です。
今回は閲覧履歴を見た!どうしよう!という話でしたが、そうじゃなくても、子どもに早い時点で「アダルトコンテンツっていうものがあるんだけど、観てほしくないんだよね」と前もって伝えることができます。また、「そういう話を雑誌で見たんだけど」といった切り出し方で話を始めると伝えやすいというのも、覚えておきたいですね。タブレットやパソコンを子どもに渡すときにルールや使い方と一緒に性情報とのかかわり方についてもぜひ話してみてはいかがでしょうか。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
HP:https://masayoshiyanagida.tokyo/profile