日本人の多くは、小さい頃に予防接種を受けている方が多いと思います。破傷風、百日咳、ポリオ、はしかなど、たくさんの予防接種を受けて病気になるのを防いできました。しかし、世界を見回すと予防接種を受けたくても受けられない子どもたちがたくさんいます。今回は、世界の子どもたちの予防接種状況についてお話します。
世界の予防接種の現状
ユニセフは、2020年に定期予防接種による基本的なワクチンの接種を受けられなかった子どもは2300万人と発表しました。2019年よりも370万人増えたとされています。この原因は、新型コロナウイルス感染症の流行によって予防接種サービスの中断が影響していると考えられています。
この中でも1700万人の子どもが1度も予防接種を受けていない可能性があるとされ、危機感が高まっています。この子どもたちの多くが、紛争地域、非公式の居住区やスラムに住んでいます。
アメリカやインドなど、普段は90%以上の予防接種率がある国で、接種率が80〜85%まで低下しているというのが現状です。参考に2018年の予防接種率を示します(表1)。日本ではほとんどの子どもが受けている予防接種ですが、世界の現状は非常に厳しいです。コロナ渦では、この数字を下回っている可能性があります。
表1:結核を予防するBCGの予防接種率
日本 | 99 % |
ラオス | 79 % |
ハイチ | 83 % |
ナイジェリア | 53 % |
チャド | 59 % |
出典:世界子供白書2019 2007年
予防接種を阻む課題
予防接種が進まない要因としてアクセスの問題、供給の問題、心理的な問題が考えられます。
①アクセスの問題
アフリカなどの開発途上国の農村部では、ワクチンを保存するための電気や冷蔵庫がないことも多いです。電気が使用できる街中の診療所まで遠く、交通手段が確保できないところに住んでいる子どももたくさんいます。
その場合、その居住地を管轄する保健センターや診療所が、アイスボックスにワクチンと保冷剤を入れて、車やバイクで各地域を巡回して子どもたちに予防接種を行います。しかし、地方の診療所のスタッフは、普段から人員不足や資金不足になっていることも多いという問題があり、定期的な巡回ができない地域もあります。
②供給の問題
予防接種ワクチンは、国が政策のもとで管理していることが多く、一定数を各エリアに供給しています。しかし、各地域で生まれた子供の数が正確に把握できていなかったり、ワクチン接種するための設備や医療者が不十分なために、村落や地方までワクチンが届かないことが多いのです。
③心理的な問題
子どもの親の予防接種への考え方や知識も影響します。予防接種を重要視していない場合は、予防接種を受けられる環境であったとしても子どもに予防接種を受けさせないでしょう。ましてや時間がかかったり移動手段がない場所に住んでいるとなおさらです。近年では、インターネットやSNS等にあるワクチンに対する不正確な情報を信じてしまい、ワクチンを拒否する親御さんも問題になっています。
例:ポリオ撲滅キャンペーン
アフリカなどの各国では、ポリオを撲滅するためのキャンペーンを行ってきました。ポリオワクチンは、目薬のような容器から口にポトッと落とす接種の方法で、注射針を使用しません。そのため、医療の専門家ではないボランティアを起用しての大々的な予防接種作戦を行っていました。あと少しでポリオが撲滅できるところまできており、市場や学校など人が集まる場所やボランティアが巡回して接種を行います。しかし、コロナ禍の現在では、行われていない可能性が高い活動です。
これからのリスク
新型コロナウイルス感染症の流行以前から世界では、ジフテリア、破傷風、百日咳、麻しん、ポリオに関する予防接種率は86%とそれほど高くありませんでした。しかし、新型コロナウイルス感染症の対応に人員や資源が必要なことから、予防接種サービスが停滞しています。
一部の国では、診療所が閉鎖したり、診療時間が短縮されていることあります。また、親が感染を恐れて診療所への受診を差し控える傾向があります。日本でも同様のことが起こり、日本小児科学会が、乳児健診や予防接種などの定期的な診療は普段通りに行うように呼びかける声明を出しました。子供の健康を守るためには、予防接種などの必要不可欠な予防行動は避けるべきではありません。
まとめ
現在、WHOやユニセフでは、世界の国々の予防接種率を90%にすることを目標に、従来の予防接種サービスを回復するための呼びかけやプログラムを実施しています。私達はこの現状を知り、自分たちや子供たちが接種可能なワクチンを受けていくことが大切ではないでしょうか。