
育休を取りたいと考えたり、実際に育休を取ったりする男性が年々増えており、パパも育休について前向きに捉えられるような時代になってきました。一方で、育休取得の準備の仕方や育休中の過ごし方、仕事との両立については手探りという方も少なくないのではないでしょうか。どのような準備や過ごし方の工夫があるのか、家事シェア研究家であり、男性の育休研修の講師も数多くされている三木智有さんに詳しく教えていただきました。

三木智有/家事シェア研究家・NPO法人tadaima!代表・インテリアコーディネーター
リフォーム会社でインテリアプランニング、施工管理、営業販売などの業務を経て独立。現在はフリーのコーディネーターとして活動中。
家は家族にとって何より”自分らしくいられる居場所”であって欲しい。という想いから、「10年後も”ただいま!”と帰りたくなる家庭」で溢れた社会の実現を目指し、2011年にNPO法人tadaima!を起業。
日本唯一の家事シェア研究家として、家事シェアを広める活動を行っている。
男性の育休の現状や課題

ーー男性育休に関する現状を教えていただけますか?
まず統計データの話でいうと、2024年は男性育休の取得者が30.1%と大きく増加しました。女性はずっと80%台だったのですが、男性もようやく3割の人が育休を取るようになりました。このデータは大手企業に限ったものではあるのですが、良い傾向だと思います。
私は男性の育休研修を開催していますが、「育休を取りたくない」と思っている方はほとんどいません。育休を望んでいるものの、仕事や会社の都合で望む通りに取れないという声があります。
また、多いのはお金に関する悩みです。育休中は給付金が出てある程度のお金は賄われるものの、働いて給料を満額もらうのと比べると入ってくるお金が減ってしまうので、そこが心配、プレッシャーを感じる、という方がけっこういます。子育てにすごくお金がかかるんじゃないか、今後のキャリアアップと給料の上昇がうまくいかなかった場合に、今ちゃんと稼いでおかないと子どもの学費や塾代をしっかり払えないんじゃないか。そんなふうにお金のことやキャリアのことで悩んでいるんです。
ーー子どもが自分で生きていけるようになるまでだいたい20年かかることを考えると、お金に関することは悩みますよね…。そのほかに男性育休に関連する課題はありますか?
大手企業では男性も育休を取れるようになってきましたし、取りましょうという風土も醸成されてきていますが、中小企業では、人材不足で人がいない、自分の代わりがいないので休めない、周りでほかに休んでいる人がいない、といった状況がまだまだあります。ただ、今は、会社側に男性育休取得の推奨が義務化されていて、「いつから育休を取りますか」という前提で話を進めやすくなってきています。
育休に向けての準備

ーー企業によっても育休を取り巻く現状が違うことが分かりました。いざ育休が取れることになった際にどのような準備をすればいいかについて教えていただけますか?
育休は3つの期間に分けられると思っています。①育休取得前の準備段階、②育休取得真っ最中の期間、③復帰も見据えた育休の終盤ごろ、です。どれにも共通して見据えておく必要があるのは復帰後の生活です。
会社にとっては、育休を取って育児を頑張って戻ってきた後に、育児と仕事を両立する生活がうまく回って、会社でのパフォーマンスもしっかり出せることが大事です。育休中はそのための準備をしてほしいという意図が会社側にはあります。そのために、業務の棚卸をする必要があります。自分がいなくても回ることと自分じゃなきゃ回らないことを明確にして、チームで取り組む体制を作る。まとまった期間の休みを取るわけですから、「その人がいないと回らない」ということを無くしていくことが大事です。
中小企業だと特に、こういう機会を活用して上司と一緒に棚卸をしていくことで、「この人が育休を取ることはこの先の会社にとっても資産になる」と思ってもらえるんじゃないでしょうか。
ーーつづいて育休中についてはどうでしょうか?
育休取得真っ最中の期間は、赤ちゃんとの生活に全集中です。特に初めての赤ちゃんが生まれたばかりだと、何をどうしたものやらという状態だと思うので、夫婦で一緒になって赤ちゃんとの生活に慣れることに全集中します。
育休を取ったものの、合間にリモートで会議、合間にメールを返しているというのは、パパにしてみるとほんのちょっとのことですが、ママにとってはものすごく気になってしまいます。「この人は育休中なのにずっと仕事をしていた」という印象に後々までなってしまうものなんです。これは、実際の回数は関係なく、そう思われたらもうダメなんです。
ーー仕事を一切せずに赤ちゃんとの生活に全集中ですね。育休の後半はいかがでしょうか?
育休の期間がどれくらいかにもよりますが、1ヶ月、2ヶ月と取るようであれば、育休終盤の1週間~2週間は復帰のための準備をする期間だと思っています。
仮に、パパが先に育休から復帰してママがそのあと半年、1年と育休を継続したあとに復帰するというケースだと、ママがワンオペで育児する期間がすごく長くなりますよね。そうすると、そのワンオペ期間のやり方がママの復帰後もベースのやり方として継続しがちです。
なので、育休から復帰する準備の期間に、お互いが復帰した時にどういう生活になるかをシミュレーションすることがすごく大事です。特にお勧めしているのが、2人が復帰して働いていることを前提にした1日を過ごすことです。まず、子どもを朝から夕方までどこかに預けます。その預けている時間が保育園の時間という設定です。朝からそのための準備をして出かけて、夜は帰ってくるときに引き取って帰ってきて、ご飯作ったりお風呂入れたりして寝かしつけまでやります。
この時、それぞれがワンオペでやってみるといいです。私自身もやりました。例えばパパがワンオペの番だったら、朝起きてから家を出るまでの間パパが一人で全部やります。家を出るまで、預けるまで。ママは見ているだけ。夕方のお迎えもパパが一人で行って、お迎えの後、赤ちゃんを連れてパパが一人で買い物をして、家に帰って晩御飯を作って、沐浴して、寝かしつけまでする。夕方のだいたいこの時間ならママも帰宅するよね、という時間になったら一緒にやり始めます。それまではママは手を出さずにずっと見ている。
ーーそれぞれワンオペの予行練習をやってみるということですね。
はい。そうすると分かることがあります。例えば「7時から合流して一緒にやる」という設定にしていると、ワンオペをやっているパパは「7時まであと何分だ…あと10分で7時になる」「あと5分で帰ってくる」と無意識にカウントダウンを始めるんです。そして7時になって「はいじゃあここから2人でやりましょう」というタイミングになった瞬間にものすごく気持ちが楽になるという体験ができます。
これを体験できないと、残業で10分遅くなった時に「いやいや、たかが10分じゃん、別に」と思うんです。仕事をしている側はこの感覚です。でも赤ちゃんの世話をしながら帰りを待っている側は、あと5分で帰ってくる、あと1分で帰ってくると、カウントダウンしながら待っているものです。10分過ぎても帰ってこない、30分過ぎても帰ってこない、いつ帰ってくるのかわからない、というのは絶望しかありません。その絶望をするのが嫌だから、パートナーに期待をしなくなっていくんです。復帰前にこの経験をしておくと、5分、10分の価値がすごくよく分かります。
男性が育休をとる意義やメリットとは

ーーお互いの感覚を共有していくことが大事だと分かりました。三木さんが思う、男性が育休を取る意義を聞かせていただけますか?
まず、パパが育休を取ることが家族を救うことにつながると思っています。パパが育休を取ると、産後のママの身体をサポートできますし、そうするとその後の長い年月の夫婦生活や家族関係に良い影響があります。
また、生まれたての子どもと接することができるというのは他では味わえない価値だとも思います。赤ちゃんは、授かることもあれば授かれないこともあります。幸いにして授かることができるというのは当たり前のことではなくすごい奇跡ですし、生まれたばかりの自分の子どもと関われる期間はほかの何事にも代えられません。2人目、3人目が生まれても、1人目のこの子との時間はその瞬間しかありません。取らない理由がないと思うので、育休を楽しんでほしいと思います。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/合同会社6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正/執筆業、ブランディング・プロモーション支援業を行う合同会社6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
性の健康イニシアチブ https://sexualhealth-initiative.org/
合同会社6483works https://6483works.tokyo/