IUDやIUSは、「避妊リング」とも呼ばれ、一度の装着で最長5年間の高い避妊効果を得られる子宮内避妊器具です。今回はこのIUDやIUSについて、具体的なしくみや効果、上手な医療機関のかかり方などを産婦人科の柴田綾子先生にお聞きしました。


産婦人科医 柴田綾子先生

2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信を行っている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。

そもそもIUD・IUSって何?

ーーIUDやIUSとは、具体的にどういったものでしょうか?

子宮の中に装着するタイプの小さな避妊具です。日本だと避妊をより確実にしたいと思ったら、低用量ピルを毎日しっかり飲むか、このIUDもしくはIUSを使うことになりますね。

IUDはIntrauterine Device、IUSはIntrauterine Systemの略です。どちらも子宮内に挿入して、子宮に受精卵が着床しづらくすることで避妊効果が期待できるものです。IUSの方には黄体ホルモンがついていて、それが5年間ぐらいずっと少量ずつ溶けだすというシステムです。日本だと「ミレーナ」という商品名で販売されています。

そのためIUSは避妊に加えて、黄体ホルモンのはたらきにより、子宮内膜を厚くせず、生理痛の改善生理の量を減らせるという効果も期待できます。つまりIUD+低用量ピルを組み合わせたような効果をもたらすのがIUSです。ただ、厳密にいうと低用量ピルには2種類の女性ホルモンが入っているのですが、IUSには黄体ホルモンという1種類のホルモンとなります。

IUDは、商品としては「FD-1」「ノバT」というものがあります。IUDには女性ホルモンがついていないので、ピルなどの女性ホルモンで吐き気や浮腫などの症状が強くでた人や肝臓の病気をもっている人向けです。IUDもIUSと同様に高い避妊効果が期待でき、授乳中でも使用できます。一方で、IUDでは月経量が増えることがあるので、IUSのほうが生理を軽くできるという点でメリットが大きいと思う人が多いかもしれません。

IUDのイメージ(銅付加タイプ)

IUD・IUSはこんな人にオススメ

ーー低用量ピルとの違いや、こんな人にIUSを使ってほしいという点を教えてください。

IUD・IUSと低用量ピルは両方とも確実な避妊ができるのですが、低用量ピルには血が固まって血栓症が起きやすくなるというリスクがあります。片頭痛が強い人、煙草を吸っている人、肥満の人、高血圧や糖尿病やてんかんをもっている人など、リスクがあって低用量ピルを飲みにくい人もいます。そのような人で避妊をしっかりしたい人には、IUD・IUSが非常にオススメです。

リスクがなくても、IUD・IUSは1度入れると5年ほど効果が続き、定期的な通院だけで大丈夫なので、低用量ピルを毎日飲むのが大変という人には合った選択肢だと思います。そして、IUSを使うと生理の量が少なくなって、中には生理がなくなる人もいます。

ーーIUSを使うと、生理の量が減るのが大きなメリットでしょうか?

IUSユーザーの中でも1〜2割ぐらいの人は生理がほとんどなくなり、生理の時も吸水ショーツだけで過ごせる人が多いイメージですね。IUSで生理の量をしっかり減らせば、出血がある時も吸水ショーツだけでいけると思います。

ナプキンを使わず、蒸れや肌荒れがなくなれば、快適になって女性の生きやすさに繋がると思っています。

IUSを装着した後には、しばらく不正出血が続くこともありますが、それも吸水ショーツを使っていただくとうまく過ごせると思います。人にもよるものの、IUSを入れた直後は1回か2回はしっかり生理が来ますが、その先は出血が減ってくることが多いですね。

ーー効果が最長5年ということですが、徐々に効果が弱まってくるのでしょうか?

ずっと同じIUD・IUSを子宮の中に入れておくとバイキンが付いてしまうことがあるので、3年から5年で交換が必要になりますね。

また、IUSのホルモンは少しずつ放出され、5年経つと徐々に黄体ホルモンによる効果がなくなってくると言われています。産婦人科を受診する必要はありますが、IUD・IUSを除去すれば、妊娠可能になります。

病院を受診する時のポイント

ーーIUDやIUSを病院で装着するにあたって、病院を受診する時のポイントを教えていただけますか?

IUD・IUSは使いたいと思った時に、すぐにその当日受診して装着することはできないことが多いです。まず性感染症がないかとか子宮頸がんがないかということを、事前にチェックする必要があるからです。まず産婦人科で検査して、IUD・IUSを使って大丈夫なのか確認してから、日を改めて入れることが多いです。

それと、生理の直前に入れると、生理が来た時に出血と一緒に脱出してしまったりするんですよね。また、妊娠していないことを確認して挿入する必要があるので、生理が始まって1週間以内に入れることが多いです。特に生理が多い人の場合は、生理の終わりかけにIUD・IUSを入れると次の生理まで時間があってしっかり落ち着くので、入れるタイミングは婦人科の先生との相談が必要になります。

また、思春期の人や妊娠・出産経験がない人でもIUSを使うことは可能です。ただ、妊娠・出産経験のない人は装着時に痛みをより強く感じる場合があります。かかりつけ医と相談して、あらかじめ病院に行くときに家で痛み止めを飲んでいったり、麻酔を使うように工夫することができるかもしれません。

装着にあたっての不安

ーー装着する時、すごく痛くて気絶しそうになったという話もあれば、何事もなかったという話もあったりして、実際どうなんだろうと不安になったりします。

子宮の形と入り口の状態にもよるので、痛みには個人差が大きいです。これは海外の人も一緒で、SNSやYouTubeにはIUD・IUSを装着した時の話などがいっぱい投稿されています。特に妊娠歴のない人は痛いことが多いですが、妊娠経験のある人でも体質によって痛みが出やすい人もいます。一般的には、内診台の上で力んだり緊張したりするとどうしても痛みが強くなってしまいます。好きな音楽などを聞いたりしてリラックスしたほうが、痛みは少し弱くなるという論文もあります。

ーー装着していて、痛みや違和感を感じることはありませんか?日常生活でIUSが出てきてしまったり、体を傷つけたりしないでしょうか。

人にもよるのですが、挿入が終わって数日たてば痛みはほとんどないことが多いです。IUD・IUSの位置がズレてしまったり、脱出しそうになったりすると違和感があるのですが、しっかり子宮の中に入っていれば違和感も少ないと思います。

基本的には子宮の中に全部入っているので、セックスで擦れたりすることはほとんどないですね。先端の糸が少しだけ腟の中に出ているので、男性は少し違和感があるかもしれませんが、恐らくそんなに気にならない程度だと思います。何かしたから位置がズレるということはあまりないですね。

まれな例として、子宮筋腫や子宮腺筋症がある人や、生理の量が多い人は少し脱出しやすいことがあります。

まだ日本ではあまり浸透していないIUD・IUSですが、長い期間、より確実な避妊をしたいという人は、ぜひ選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。


ライタープロフィール
きのコ
群馬を中心に多拠点生活をする文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療や子宮筋腫による月経困難症をきっかけに、生理との向き合い方に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。

この記事を書いた人

ツキとナミ運営事務局

この作者の記事一覧

同じカテゴリー の他の記事

  1. 心地よい人間関係の鍵「バウンダリー」とは

    本当は断りたいことも、嫌とハッキリ言うことができない…。つい他の人の世話を焼いてしまい、嫌がられたり疲れたりしてしまう…。相手のちょっとした言動がいつまでも気になってしまう…。友人や恋人、家族の間でも、このような関係性の難しさを感じたことはありませんか? 「バウンダリー(境界・境界線)」を知ることで、心地よい人間関係のヒントになるかもしれません。今回は、人間関係でお互いに安心して自分らしくいられる「人との安全交流」ための考え方を紹介します。 バウンダリーとは 子どもへの暴力防止をめざす予防教育を行う認定NPO法人CAPセンター・JAPAN(以下、CAPセンター・JAPAN)によると、バウンダリーとは、誰もが持っている「こころ」と「からだ」を守る安心・安全な透明カプセルのようなものだと説明しています。 このバウンダリーという概念を持つことで、人との関係性のあり方を意識することができ、自分の気持ちや言動を調整することにも役立ちます。 たとえば、他の人と話す時、どのくらいの距離感が居心地がよいかは人によって違います。相手に触れられても平気という人もいれば、ちょっと離れていた方が安心する人もいます。また、相手との関係性だけでなく、その時の気分や体調によっても変わることもあります。このようにバウンダリーは、状況や関係性によって柔軟に変わりうるものなのです。 しかし、変わらないことが1つあります。それは、「わたしのバウンダリーはわたしが決める」―つまり、「わたしのからだはわたしのもの。わたしのこころはわたしのもの。わたしのことはわたしが決める」ということです。 まずはわたし自身のバウンダリーを意識し、認め、肯定するところから、お互いのバウンダリーを大切にする「人との交流安全」は�

    もっと読む
    2024年 08月16日
    #コミュニケーション
  2. 子どもと大切にしたい、プライベートゾーンと同意

    「子どもにプライベートゾーンをどう教える? 」では、「プライベートゾーン」という言葉についてや、親子でプライベートゾーンについて話す際に保護者 が知っておきたいことなどを取り上げました。今回はその続編とも言える内容で、子どもに同意を取ることの重要性や、保護者が気を付けたい行動などについて、助産師・保育士・チャイルドファミリーコンサルタントのやまがたてるえさんにお聞きしました。 やまがたてるえ/助産師・保育士・チャイルドファミリーコンサルタント 病院勤務後、自身の妊娠出産子育てを経て、地域子育て支援の活動を157年行なっている。たくさんの親子の子育て相談や、女性ためのカウンセリングなども行っています。子育て支援を、家族支援へとシフトチェンジしたくNPO法人子育て学協会のチャイルドファミリーコンサルタントとしても活動中。現在まで6冊の本を出版。近著は【13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと】HP: https://www.hahanoki.com/ わが子は自分とは別の人間であり大事な存在 ーープライベートゾーンや同�

    もっと読む
    2024年 08月02日
    #コミュニケーション
  3. 漢方、食養生の始め方・取り入れ方

    「食事を工夫すると健康にいいって聞いたけど、どんなことに気を付ければいいの?すぐできることは何?」という疑問を持っている方もいらっしゃるかもしれません。「食事で体質を改善して健康になる」という考え方に関しては、東洋医学が長い歴史の中で様々な知恵を積み上げてきました。助産師・保育士・チャイルドファミリーコンサルタントのやまがたてるえさんに、「漢方」や「食養生」について教えてもらいました。食事で体質改善して健康になるってどういうこと?どんなことに気を付けて何を食べればいいの?そんな疑問がスッキリします。 やまがたてるえ/助産師・保育士・チャイルドファミリーコンサルタント 病院勤務後、自身の妊娠出産子育てを経て、地域子育て支援の活動を17年行なっている。たくさんの親子の子育て相談や、女性ためのカウンセリングなども行っています。子育て支援を、家族支援へとシフトチェンジしたくNPO法人子育て学協会のチャイルドファミリーコンサルタントとしても活動中。現在まで6冊の本を出版。近著は【13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと】 HP: https://www.hahanoki.com/ 東洋医学が大事にする食事や漢方薬での体質改善

    もっと読む
    2024年 07月19日
    #PMS
  4. 生理前のイライラ、原因と対処法は?

    生理前になると、イライラや感情の乱れに悩む方も多いと思います。今回は生理前のイライラへのさまざまな対処法や、効果が期待できる薬について、産婦人科医の柴田綾子先生にお聞きしました。イライラが他の疾患のサインかもしれない場合や、婦人科受診の重要性についても触れています。 産婦人科医 柴田綾子先生 2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信をおこなっている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。 生理前のイライラの原因と対処法。効果のある薬は? ーー生理前のイライラの原因と対処法について教えていただけますか? 生理前のイライラはPMS(月経前症候群)の症状として多くの女性が経験しています。 その原因の1つとして、生理前に分泌が増えるプロゲステロン(黄体ホルモン)の影響が考えられますね。生理の初めの方もプロゲステロンの分泌が多かったり、月経困難症の症状として生理中にイライラしたり、情緒不安定になったりすることもあります。 まず、日常生活でできることとして、リラックスできるように、スケジュールを緩めて休む時間を意識しましょう。ストレスがPMSを悪化させること�

    もっと読む
    2024年 07月05日
    #PMS
  5. 生理前や生理中の食欲の増加、どうすれば?

    生理前や生理中の食欲の増加に悩む女性は多いものです。今回はその原因や対処法について、産婦人科医の柴田綾子先生に伺いました。ホルモンバランスや栄養不足が関与するこの問題に対して、どのような対処法が有効なのでしょうか。 産婦人科医 柴田綾子先生 2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信をおこなっている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。 生理前や生理中の食欲の増加の原因 ーー生理前や生理中の食欲の増加についてお伺いします。まず、原因を教えていただけますか? 生理前の食欲増加が強い場合は、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)の可能性があると思います。その原因としては、生理前に分泌が増える黄体ホルモンであるプロゲステロンの影響が考えられますね。また、月経中の食欲増加も、生理の初めの方やプロゲステロンが多い時期に見られることがあります。 それ以外にも、貧血のような症状が関連している可能性もありますね。出血の量が多いと貧血の症状が出ることがあります。 ーーつまり生理中に食欲が増すのは、ホルモンの変化や貧血による鉄欠乏の影響ということでしょう

    もっと読む
    2024年 06月21日
    #PMS
  6. 生理前・生理中に眠い…眠気の原因と対処法

    生理前や生理中、眠くなって困ることはありませんか?今回は、PMSや月経困難症が眠気の原因となる可能性や、生理前と生理中での眠気の違いについて、産婦人科医の柴田綾子先生にお聞きしました。眠気の対策として、生活面での工夫や漢方薬、低用量ピルの活用のほか、普段の生活の中でできる工夫として、カフェインの摂取や食事についてもアドバイスをいただいています。 産婦人科医 柴田綾子先生 2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信をおこなっている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。 生理前・生理中の眠気の原因 ーーまず、生理中や生理前の眠気の原因について伺いたいと思います。どんなことが考えられますか? まずは生理前の眠気ですが、PMS、つまり月経前症候群が関係している可能性があります。これにはいくつかの原因がありますが、生理前にはプロゲステロンという黄体ホルモンが増えることが一つの要因ですね。また、生理中の眠気が強い場合は、月経困難症の可能性も考えられます。月経中の眠気に関しては原因がはっきりしておらず、生理の症状が影響しているのかもしれません。

    もっと読む
    2024年 06月07日
    #PMS
同じカテゴリー の記事をもっと読む
TOP