妊産婦死亡という言葉を聞いたことがあるでしょうか。妊娠中や産後の女性が亡くなることです。日本では、妊娠中や産後の女性が亡くなる数は、世界的に見ると非常に少ないです。しかし、世界を見わたすと日本とは違う課題が山積みになっています。今回は、そんな世界の妊産婦死亡についてお話します。
妊産婦死亡とは
妊産婦死亡率とは、出生10万人あたりの妊娠中から産後42日以内の妊産婦死亡数をいいます。妊娠合併症や出産時の出血、感染症、メンタルヘルスの問題など様々なことが原因となっています。
日本の現状
妊産婦死亡の日本の現状は、1990年からの20年間で妊産婦死亡率は大幅に減少した※とされています。2018年では、妊産婦死亡の人数は、10万対して3.3人です。原因は、産科出血19%、脳出血14%、羊水塞栓11%、心臓大血管9%の割合となっています。一方で、産後うつなどのメンタルヘルスの問題による自殺も問題になっています。
※2019年の産科婦人科学会の報告
世界の現状
2019年のユニセフの報告書によると、妊産婦死亡の86%がサハラ以南のアフリカと南アジアに集中しています。紛争の影響を受けている国では、妊産婦の他、新生児、子ども、青少年の死亡率も非常に高くなっており、2019年では、1時間に33人の女性が出産で亡くなっているとされています。妊産婦死亡は適切な時期に妊婦健診を受け、出産時にトレーニングを受けたスタッフのサポート受けている場合、もっとリスクを少なくできます。
しかし、開発途上国の多くの国では、妊婦は妊婦健診を定期的に受けないことも多く、出産も自宅で行うことが多いのです。その理由は、助産施設までの距離が長い、助産所までの交通機関がない、そもそも通える場所に助産施設がないこともあります。また、トレーニングを受けたスタッフがいない場合は家族だけ、または伝統的産婆と呼ばれる村の女性が出産を介助することがあります。
そういった地域では、赤ちゃんのへそを切るハサミがなく、竹などを鋭くして切れるようにしたものを消毒なしで使用することがあります。使い捨て手袋もなく、衛生的な材料なしに出産を行うことがあります。また、出血が多い、血圧が高いなどの合併症が起きた際、薬もないため対応できません。このような状況でのお産は、健康で問題なく出産できる場合もありますが、一度正常を逸脱すると命に関わることになります。
また、出産に対応できる施設や物だけが問題ではありません。以前お話した、女性性器切除の問題も深く関わっていると考えられています。
(世界で起こっている「女性性器切除」ってどういうこと?)
切除部分の瘢痕化による出血や性器切除に伴い陰唇が縫い合わされている状態の女性では、出産時に切開を加える必要があります。その時の不手際で感染や出血のリスクにさらされます。さらに、妊娠中絶が処罰の対象になっている国では、望まない妊娠では秘密裏に危険な中絶手術を受けることになり、深刻な合併症で死亡するケースもあります。
ミレニアム開発目標とSDGs
2000年にミレニアム開発目標が示され、その一つに妊産婦死亡率の低減が採択されました。ミレニアム開発目標とは、2015年を目標に国連で採択された国際社会共通の目標としてまとめられたものです。
この目標は、妊産婦死亡を4分の3減少させるというもので、実際に1990年では10万人あたり380人だったのが、2013年には210人に減少しました(死亡率は45%減少)。熟練した医療従事者の立ち会いのもとでの出産は、1990年では59%だったのが、2014年では71%に増加したと報告されています。
残された課題は、妊産婦死亡はサハラ以南のアフリカと南アジアに集中していることで、2013年時点で世界帯の数の86%を占めています。熟練した医療従事者の立ち会いによる出産は、東アジアが100%であるのに対してサハラ以南のアフリカと南アジアは52%のみです。
これを受けて新たに定められのが、SDGsです。これは、2030年の実現を目指したもので、17項目が定められています。目標3の「すべての人に健康と福祉を」の中に妊産婦死亡率のさらなる低減が含まれており、2030年までに妊産婦死亡数を10万人出生あたり70人未満まで減らすことが目標です。また、開発途上国の保健サービスに関わる職員の能力や研修を増やすことも挙げられています。
まとめ
現在、少しずつ妊産婦死亡の状況は改善されつつあります。しかし、その道のりは険しいものです。コストや人材、社会システムや地形、宗教や風習などが大きく影響します。日本でもまだ課題が残されています。すべての母親が安全に妊娠・出産ができるようにそれぞれの国で取り組みを進めていく必要があります。