産婦人科医に聞く!不妊治療のこれからと課題とは?

2022年の4月から不妊治療が保険適用となったことを受けて、前回は不妊治療について、始めるタイミングや治療の選択肢についてお伝えしました。
不妊治療、いつから始める?どんな種類がある?

今回は、不妊治療の今後の支援や助成金の見通し、課題を産婦人科医の柴田綾子先生にお聞きしました。


産婦人科医 柴田綾子先生

2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信を行っている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。

保険適用にならなかった不妊治療の選択肢

ーー今回保険適用にならなかった不妊治療の選択肢としては、どのようなものがありますか?

2022年4月の不妊治療の保険適用にあたって国内でもさまざまな議論があり、結局保険適用にならなかった治療法もあります。

たとえば、治療開始時に43歳以上の女性の不妊治療は保険適用されず、全額自費となりました。不妊治療にはこれまで各自治体が助成金を出していたのですが、今回の保険適用によって、今まで自治体の助成金を受けられていた43歳以上の方への補助がなくなってしまいました。43歳以上の方への助成金を復活させている自治体もありますが、あくまで一部に限られています。

また今回、一部の不妊治療クリニックでおこなっているけれども保険適用にならなかった中で「先進医療」と位置付けられている治療法もあります。先進医療というのは研究のような位置づけで、基本的には自費診療ですが、認定された施設では保険診療と一緒に使えるものがあります。

たとえば受精卵の染色体や遺伝子が異常ではないことを調べた上で子宮の中に戻すという技術(PGT-A/PGT-M)があるんですが、そうすることで流産率を下げられるという報告があります。一方で受精卵の染色体をあらかじめ調べることでダウン症などの障害のある子は選ばれなくなってしまうので、命の選択につながるリスクがあるということでどうすべきか議論がありました。結局今回は保険適用にならなかったんですが、海外では広く使われている技術でもあり、今後また検討されるかもしれません。
また、配偶者ではない人の精子や卵子を不妊治療で使う方法(卵子提供・精子提供)については、今回は保険適用が見送られています。卵子提供や精子提供なども海外では認められていますが、日本でどうしていくかという議論は今後もあるのではと思います。

ーー卵子提供を希望する場合はかなり高額なものになるんでしょうか?

基本的に自費で、卵子提供を受けるとなると、たとえばアメリカに行ったりするんですが、渡航費など含めて800万円から1000万円ぐらいかかるそうです。でもよく考えると自費で体外受精による不妊治療を1回50万円から70万円くらいの価格で10回やるとそれくらいの費用になってしまうんですね。これでは本当に不妊に悩む人への負担が大きいということで、今回不妊治療の保険適用が始まったんです。

不妊治療のハードル

ーー不妊治療の課題として、他にもハードルになっていることはありますか?

地域格差がとても大きいというのも問題になっています。不妊治療のクリニックは都心部で集中的に発展していて、ほとんど地方にはないんですよね。今回保険適用になって、不妊治療をやりたいという方が非常に増えたんですが、地方での受け皿がなくて、都心部にあるクリニックへの往復やクリニックでの待ち時間も負担になってしまっているんです。何度も通院したり、急な来院が必要となるケースもあり、仕事と妊活の両立が難しくて結局仕事を辞めてしまったという話も聞いたりしますね。

ーー単にお金がかかるというだけではなく、時間の制約などもあって、生活が不妊治療を中心に回らざるを得ないんですね。

はい。またメンタルケアもものすごく大事と言われています。女性側の負担が大きいので、不妊治療中の方のメンタルサポーターの育成が今始まっています。不妊治療中は、周りには妊娠や出産を順調にされている方もたくさんいる中で、自分だけがなかなか妊娠できないこともあります。不妊治療って頑張れば必ず成果が出るというものではないので、どんなに頑張ってもやっぱり難しいときもあるんですよ。

それに原因不明の不妊がすごく多いので、いろいろ検査で調べても全然原因は分からないけど妊娠できないという方のほうが多いんですよね。そうすると全然答えもないし先も見えないし、お金と時間だけが消えていくことになります。 あと会社で不妊治療のことを話せていない方も多いと思います。「不妊治療をします」って言うと「いつ妊娠できるの?」みたいなプレッシャーが嫌じゃないですか。治療していることをオープンにしたくない方が多いなかで、だけど治療のために早退とか遅刻とか休まなければいけないとなると、周りが「なんでいきなりこんなに何回も休むの?」となって、いづらくて仕事が続けられなくて辞めてしまう方が多いですね。実際には不妊治療って非常にお金がかかるので、仕事を続けたい方が多いんですが。

ーー精子提供や卵子提供などの不妊治療において、同性カップルの利用に制限はあるんでしょうか?

日本は同性カップルで不妊治療を受けるのは、まだパートナーシップ制度を認めている自治体が少ないということもあり、難しいことが多いです。たとえば事実婚でも男女であれば不妊治療は保険適用になるっていうのは決まっているんですが、パートナーシップ制度がない自治体だと婚姻関係が証明できないんですね。同性カップルでの不妊治療は、海外では例があるんですが、日本だとまだそこまで話が進んでいなくて、受け入れできるクリニックは少ないかもしれません。子供をもちたい同性カップルは海外に移住したりする方もいるかと思います。たとえば海外で不妊治療をして戻ってきても、同性カップルが「家族」として認められるかが問題になるんです。妊娠はできたけど、じゃあその子供が法的にその同性カップルの子供かどうかをどう考えるのか、といった点で日本はまだ法整備がしっかりできていないと思います。

不妊治療をしながら働く人のために企業ができること

ーーストレスなく不妊治療に集中できる環境を作るために、企業にはどういう福利厚生や体制が必要でしょうか?

「くるみんマーク」という、不妊治療と仕事の両立支援のマークがあります。厚生労働省がやっているんですが、不妊治療って半日単位とか時間休でちょっとクリニックに行かないといけなかったりするので、フレキシブルな休みがとれるといいですね。

あとは有給休暇をとる時に理由を言わなくていいと助かります。「不妊治療で有休を取る」など理由を言いたくない人がほとんどなので、理由なくカジュアルに半休や時間休がとれるといいですね。

そういう取り組みをしている会社が厚生労働省に申請すると、くるみんマークがもらえます。産休育休が取りやすいとか男性の育休の割合が高いとか、そういうところで会社を選ぶ方が今増えているのではと思うんですが、パートや再雇用の時はくるみんマークに対してニーズがあるんじゃないかなと思います。


保険適用が始まったことでハードルが下がりつつも、まだ仕事との両立やメンタルケアに課題が残る不妊治療についてお伝えしました。不妊治療をしていない人たちにも理解がもっと広がることで、治療をしやすい環境整備にも繋がるのではないでしょうか。

〇ライタープロフィール

きのコ

群馬を中心に多拠点生活をする文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療や子宮筋腫による月経困難症をきっかけに、女性の身体のことに興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。

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