性科学から紐解く、心地よい性生活のヒント

パートナーシップの中でも、大切な性生活。パートナーと心地よい時間を過ごしたいと思っても、痛みがあってリラックスできなかったり、さらにはパートナーにも申し訳ない気持ちを持ったり、性行為自体に消極的になってしまったりする人も少なくありません。痛みには様々な理由がありますが、痛みを軽減し、お互いの満足につながるコツや知識があるそうです。産婦人科医で日本性科学会認定セックス・セラピストの早乙女智子先生に聞きました。
(※本記事内では、便宜上、生物学的な男性を男性、生物学的な女性を女性と表現し、また身体の性が男女の組み合わせでの性行為を中心に解説しています。しかし、現実の性別のあり方は様々です。)


監修/話題提供

早乙女智子先生

早乙女智子/産婦人科医・往診専門医・認定セックスセラピスト

女性の健康を守るのに欠かせない「妊娠出産関連費用の無償化」を!
女性の外陰部をないもののように扱ったり軽く考えたりすることに憤り、「会陰切開はおせっかい」に集約される女性の人権、健康、生き方に関する啓発活動を行ってきました。

●月光会さおとめ智子ジェンダー政策研究会主宰
●日本性科学会副理事長
●世界性の健康学会(WAS)理事
●神奈川県立足柄上病院 非常勤医師
●Sola Clinic 非常勤医師

性科学の視点で紐解ける性の悩みとは?

セックスとは何をすることなんでしょうか?みなさんはどうやってそれを学びましたか?習ったことがなくても、何となく分かりそうなつもりで、「ハグ、キス、挿入を順番に行うもの」というイメージを漠然と持っていませんか?

それだけがセックスではありませんが、そういった行為を経て少しずつ心身の興奮が高まってきます。その身体や心の反応にも段階があり、早いタイミングで挿入すると痛みを感じることもあります。そのような身体の反応についてまとめた「性反応の4段階」を紹介します。

性反応の4段階から考える心地よいコミュニケーション

性反応の4段階
(1)興奮期
  視覚・触覚刺激により、性器が充血。男性器は勃起し、腟は濡れる。
(2)高原期
  性的反応の持続により性的興奮が更に高まった状況。
(3)オーガズム期
  性的興奮が絶頂に達し、リズミカルな性器の収縮が起こる。
(4)消退期
  興奮状態が落ち着き、平常時に戻る回復へのプロセス。

性反応の4段階とは、セックスの時に身体が徐々に性的に興奮して、オーガズムに達して、落ち着く。そのプロセスを科学的に4つの段階に分けたものです。これはマスターズ&ジョンソンという2人組の科学者が大勢の人にインタビューした結果から導き出しました。

その後、カプランという科学者が、女性はタッチングや囁きなどによって身体が性的に反応するといった理論も展開しています。どんな姿に興奮するのか、触られ方や会話の好みも人それぞれ。たとえば「挿れるよ」という言葉に興奮する人もいれば、興覚めしてしまう人もいます。何を性的に好むのか、好まないかをお互い把握しておくことも大切です。

性反応の4段階をそれぞれ見ていきます。

興奮期」には、性的な刺激によって性器が充血し、男性器は勃起し、腟は分泌液でしっとり濡れてくることが起こります。

更に性的な反応が持続してくると、男性は精巣が持ち上がり、女性は子宮と卵巣が奥のほうに持ち上がり腟の奥が開いて腟の分泌物が更に増えてきます。呼吸数、心拍数、血圧が上がり、挿入の準備ができている段階です。これを「高原期」と言います。たとえスマホで着信があったとしても、気付かないくらい集中している段階です。

続く「オーガズム期」には、性的興奮が絶頂に高まると、男性は陰茎海綿体が収縮して射精が起こり、女性はオーガズムが起こって腟が痙攣のような収縮をします。同時に子宮も収縮します。いわゆる「イク」という状況で、呼吸数、心拍、血圧が上昇以外にも、汗が出たり、皮膚が紅潮したりするなど、様々な反応が起きます。

消退期」は、男性はオーガズムの後に不応期と呼ばれる一旦反応しないタイミングに入ります。他方で女性は、マルチオーガズムといって短い時間に何度もオーガズムを迎える人もいます。そのため、射精後は急に性的興奮から冷めてしまう男性と、余韻に浸っていたい女性とですれ違いが起こりやすいのかもしれません。

性器挿入をするタイミングとしては、この4段階の「高原期」が適しています。少し濡れてきただけで受け入れる準備ができていると思って挿入すると、性交痛を感じる場合があります。痛いと思った瞬間に消退期に入ってしまい、その日のセックスがそこで終わってしまうこともあるでしょう。

そのため、少し濡れたからといって挿入を焦らないことが非常に重要です。女性側が(前戯などで)一度オーガズムを得てから挿入するのも一つの方法です。

カップル会議のススメ

セックスの話をオープンにすることを恥ずかしいと感じるカップルも少なからずいるようですが、裸になってお互いの身体に触れ合うセンシティブな時間にきちんと向き合えることは、大切なことです。

もちろん、これまで性について全く話してこなかったカップルが、いきなり話すのはハードルが高いかもしれません。日頃から思うことを伝え合い、YESもNOも伝え合える関係性が作れて初めて、セックスに関する話がしやすくなると思います。服を脱ぐ前のコミュニケーションが実は重要なのです。
たとえば、「止めて」や「もっと」のサインやボディランゲージなどを事前に決めておくのもいいでしょう。

カップル会議を繰り返しながら、実践経験を増やす

セックスは自転車に乗るのと似ています。最初は乗ろうと思ったが倒れた。なので次はもう少しバランスを取れるようにしよう。というように、できていないことを反省しながら改善して乗れるようになっていきます。

ボディランゲージ、無言のコミュニケーション、言語でのコミュニケーションの3つを使い分けることで、カップル間で実りあるコミュニケーションが取れるように思います。

相手に向き合う大切さ

「性反応の4段階」は身体の変化に関する知識でしかありません。目の前にいるパートナーは生きています。日々体調やコンディションが異なります。

生きている生身の人間を相手にするのですから、知識通りに物事が運ぶわけではありません。相手をよく見ながら「その日に一番いいこと」をするという心がけが大事です。

マニュアルばかりに頼らず、作業のような性行為にせず、しっかり相手と向き合っていくことです。それが相手との時間をさらに心地よいものにしてくれます。

「性反応の4段階」は「相手と向き合ううえで有益な知識」の一つとして、自分・相手と向き合うヒントになればと思います。

取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
HP:https://masayoshiyanagida.tokyo/profile

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