実は多い?性交痛の悩みとまず自分でできること

性交痛ーー。セックスの時に感じる痛みのことです。性交痛を感じたことのある女性は、実は年代にかかわらずかなり多いという調査データもあります。診療や相談の経験から見えてきた性交痛のお悩みのリアルな声、自分でできる性交痛対策について、産婦人科医で日本性科学会認定セックス・セラピストの早乙女智子先生に聞きました。


監修・話題提供

早乙女智子/産婦人科医・往診専門医・認定セックスセラピスト

女性の健康を守るのに欠かせない「妊娠出産関連費用の無償化」を!
女性の外陰部をないもののように扱ったり軽く考えたりすることに憤り、「会陰切開はおせっかい」に集約される女性の人権、健康、生き方に関する啓発活動を行ってきました。

●月光会さおとめ智子ジェンダー政策研究会主宰
●日本性科学会副理事長
●世界性の健康学会(WAS)理事
●神奈川県立足柄上病院 非常勤医師
●Sola Clinic 非常勤医師

性交痛のお悩みのリアルボイス

今回、早乙女先生のご経験から、性交痛に関するよくある悩みの声を教えてもらいました。

前の彼氏の時は痛くなかった

ーー病気以外に、どんなことが性交痛の原因になるのでしょうか。

特定の相手に対して性交痛が出るケースがあります。「前の彼の時は痛くなかったのに」という件ですね。

女性の心身が受け入れる準備が出来ているか、ふたりの盛り上がり方が一致しているか、サイズ感やちょっとした身体の向きや角度などがフィットしているかなどが痛みの原因になっていることが多いです。

濡れやすくて挿入までの時間が短くても大丈夫という女性もいれば、身体の準備が整うまで少し時間が必要な女性もいます。身体が受け入れる準備が整う前に挿れてしまうと性交痛につながります。

300人に1人くらいは処女膜強靭症という別の理由で、そもそも挿入ができない人がいます。いずれにしろ凹む必要はないことなので、医療機関に相談してほしいと思います。

ーー身体の準備が整っているかどうかを見極めることが大切なのですね

性反応の4段階といって、性的な興奮が起こる前から性的な事が納まって興奮が落ち着いていくまでの流れを段階に分けて考える考え方があります。十分に興奮する前に入れてしまうと身体の準備ができていないので痛みを感じることがあります。

編集部から:
性反応の4段階についてはこちらの記事も参照してください。
https://tsukitonami.jp/all/pregnancy/partnership10/

トラウマでうまくいかない

ーー身体の準備とは別に、心理的な理由で痛みが出ることもあるそうですね

性交痛に関して、私はいつも「痛いのか、怖いのか」と質問をするようにしています。過去に性的なことで嫌な思いや痛い・つらい・惨めな経験をしたことがある、同意がないままセックスをされた…など、過去の怖いあるいは嫌な経験が関係していることも。性的同意がなく心理的安全性が守られない状況での受動的な性行為のトラウマから、恐怖心や緊張が高まり性交痛につながる事例は、実はけっこう多いです。

妊娠不安が強くてリラックスできない

ーー心理的な要因も性交痛につながるのですね

また、コンドームを使ってくれなかったから妊娠が不安でリラックスできなくて痛い、というのもあります。「今日、排卵日かもしれないのに」と考えて、妊娠不安によってリラックスできないまま半ば無理やりされて、痛くて結局入らなくてホッとした、というような話を聞いたりします。

男性もリラックスしていなければ勃起はうまくいきません。しかし、もし男性側が勃たなければ「勃たないからここで終了」となりますが、女性は濡れていなくても男性が勃起していれば挿入されてしまうことがあります。
「濡れていないなら潤滑ゼリーを使えば」という話が出ることも多いですが、潤滑ゼリーはあくまで潤いを補うもの。性的な興奮を高めたりリラックスにつながったりはしないので、性交痛の解決が難しい場合もあります。

自分でできる性交痛対策

性交痛にも色々な悩みや原因があることが分かりました。相手のあることではあるものの、婦人科医等の受診で身体の状態を診てもらうことの他に、自分でできる対策はないのか早乙女先生に教えてもらいました。

自分の身体だから自分で知ろう

ーー性交痛対策のために自分でできることはありますか?

まず自分の性器を自分で見てみる・触ってみるといいです。自分の処女膜がどんなふうになっているのか、外陰部がどんな形をしてるのか、どこを触ると嫌な感じで、どこを触ると嫌じゃないのか、 指や器具を挿入した時にどの辺まで入るものなのか…。 自分のタイミングでやってみましょう。

だいたい自分の人差し指くらいが入る感じだと思っていいんですが、怖がる人は「挿れて大丈夫なんですか?」「お腹まで届きませんか?」「処女膜が破れませんか?」 と色々考えてしまうようですが、心配しなくて大丈夫です。

また、「ミレーナを入れてもセックスできるんですか?」という質問を受けます。指や性器が入る膣の奥に子宮があり、ミレーナは子宮の中に入れます。子宮の中までペニスは来ません。

「自分の身体なのだから自分で知ることが大事だよ」と、いつもいつも口を酸っぱくして言っています。

編集部注:
ミレーナは、 IUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)という、子宮内に入れて使用する器具の製品名です。一般的に最大で5年ほど子宮の中に入れたまま使用します。ミレーナを装着していても性交時には何も支障なく行えます。

自分の身体であって相手に貸すものではない

ーー普段から自分の身体を見ておくと通常の状態を把握することができるので、痛い・かゆいといった異常が出た場合に気付きやすくもなりますね

その通りです。ただ、自分の身体を自分で見てみる・触ってみるというと、「触っていいんですか?」という質問が出ることもあります。他人の許可は要りません。

「鼻や耳や口を触ることがありますよね。それと何か違いますか?そこだけどうして特別視するんですか?」と伝えると「どうしてでしょうね」とおっしゃる方もいます。まず「相手に貸すものじゃない。自分のもの」という感覚を持つことが何より大事です。

意思表示を大事に

ーー「相手に貸すものじゃない。自分のもの」という感覚、すごく大事ですね

貸すものではないのだから、自分が痛いと感じたら「今は痛いからやめて」と言えばいいんです。また、ちゃんと言えるようにすることが大事です。自分のものではなく、相手に貸している・使われちゃっているような状態だと「すいませんけどやめてください」という言い方になってしまったり、「やめて」と言えなくなってしまったりします。

自分の身体の一部として状態を把握することは、大人の女性としては大事なことだと思います。

いつも「性的な経験ができる大人なのだから、自分の身体のことは自分でやろうよ」と言ってます。

自分の身体にオーナーシップがあることをしっかり認識しよう

ーー自分の身体は自分のもの。これは身体のオーナーシップ(所有権)の話ですね

男性に「そのペニスは将来子どもを作るためのものだから安易に射精するな」って言いますか?そう言われたら違和感があると思うんです。

そう考えた時に、どうして女性の身体は女性のもの、女性の身体に女性自身のオーナーシップがあるというところに至らないのだろうかということを、男性も疑問に思ってほしいです。これも「女/男はこうあるべき」というジェンダーバイアスにも関わっていますね。

性にかかわるコミュニケーションについて、まずは「自分の身体のオーナーシップは当たり前のもの」という感覚を是非育ててほしいです。


いかがでしたか? 続く記事では、更に性交痛のパターン別の対応方法について早乙女智子先生にお伺いします。

取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
「誰もが自分は自分に生まれてよかったと思える世界」を作るために「どこに行っても性の健康を享受できるように社会環境をアップデートすること」を目指す性の健康イニシアチブの代表。2002年から国内外の性教育、性科学の様々な活動に参加してきたほか、思春期保健や両親学級などの活動も経て現在に至る。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表としても活動。インタビュー記事の制作を得意とする。
HP:https://masayoshiyanagida.tokyo/profile

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