「思春期の子ども」とどう付き合ったらいい?

子どもが思春期を迎えるころ、ちょうど親は更年期に差し掛かる。お互いに心身の変化を経験することで関係性にも大きな変化が訪れるーー。多くの家族がそのようなことを経験しているのではないでしょうか。「子どもの思春期ってなんだか付き合い方が難しそう。そこに自分の不調が重なったら、どうしたらいいんだろう…」と不安になるお母様に向けて、助産師/チャイルドファミリーコンサルタントのやまがたてるえさんにお聞きしました。

監修・話題提供
やまがたてるえ/助産師・チャイルドファミリーコンサルタント
病院勤務後、自身の妊娠出産子育てを経て、地域子育て支援の活動を15年行なっています。たくさんの親子の子育て相談や、女性ためのカウンセリングなども行っています。子育て支援を、家族支援へとシフトチェンジしたくNPO法人子育て学協会のチャイルドファミリーコンサルタントとしても活動中。現在まで6冊の本を出版。近著は【13歳までに伝えたい男の子の心と体のこと】
HP: https://www.hahanoki.com/
思春期は大人になるために必ず通るデリケートな時期

思春期は、子どもの身体が大人になるために、性ホルモンの分泌が盛んになる時期です。男性は、テストステロンが一度出始めたら年齢と共に減少はしますが、生涯に渡り分泌が続きます。女性は、エストロゲンとプロゲステロンが出るようになり、生理前に食欲が出たり、イライラしたり、落ち込んだりといった波を経験するようになります。
思春期の子たちにとっての性ホルモンの存在の大きさを大人が理解する必要があります。「思春期はさなぎ」と言われることもありますが、ドロドロぐちゃぐちゃした状態を経て変わっていきます。大人はそれを理解する必要がある一方、当事者は年齢だけで自分のことを判断されたくない気持ちや、変わっていく自分を受け止められない気持ちがあるという難しい状況です。
こうした難しい状況は、
①性ホルモンの影響
②脳の扁桃体の刺激が強くなって感覚過敏が起こる
③取り巻く環境の変化(中学校に進学すると、小学校という小さな集団から、より大きな集団に入ったり、部活動等新たな人間関係も始まったりします。そのような大きな環境の変化が思春期と重なることがあります)
といった3つの大きな原因から生み出されていると、私は考えています。
その大変な渦中にいる子どもたちの中では
- 「なんで生きてるんだろうか」と問い続けてアイデンティティを確立させる
- 自己成長を実現していく
逆に成長を折られる挫折を経験する(小学校では成績トップだった子が中学生になると10番になるなど) - カラダの変化による自己の喪失や自信の喪失を経験する
- やりたいことも増えてきて自己実現したいことも増えてくる
といった変化が起こっています。
昔は、思春期といえば反抗期とセットで語られていたこともありましたが、最近は関係性のいい親子や反抗期のない子どもも増えています。一見問題のなさそうなそういった環境にいる子が、不登校や引きこもりになったり、精神疾患になったりするのが最近の傾向です。以前はいわゆる「ヤンキー」のような暴力的な在り方もありましたが今はそういうことは少なくなりました。代わってリアルでは見えないところで行われる、ネットでのいじめのような行動や、ほかにもさまざまな問題ととらえられる行動も増えているとも考えられます。時代に応じて形を変えながら、思春期の生きづらさを表現しているのではないかと感じています。
飛び立つ子どもと体調の悪くなる母で、関係性が合わなくなる

子どもが思春期に差し掛かるころ、お母様は更年期に差し掛かって、親子関係がこれまでと大きく変わる、というご家庭は少なくありません。子どもが女の子の場合に、私は「増えるホルモン 減るホルモン」という表現をいつも使っています。
今まで元気だったお母様は、更年期に入って体調が悪くなります。女の子は性ホルモンが出て不安定になります。それによってちょっとした行き違いでイライラがぶつかり合い、喧嘩が絶えなくなったり、今までは素直に話が聞けていたのに、「なんで!どうして!」と攻撃的になったりするのです。結果として、子どもとの円滑なコミュニケーションが取れない、子どもが親の言ったことを聞かない、ということが当たり前に起こります。
また、子どもが男の子の場合は話さなくなることが多くあります。「ねぇねぇママ、ママ!」とお母様にべったりだった子が話さなくなり、おやつを出してもスンとなって部屋にこもり、調子が悪いお母様はそれを見てイライラする、ということが起こるのです。
かわいかった男の子が別人になるのでどう接していいのかわからないうちに関係性が断ち切られたように感じるお母様は多いと思います。
性別だけでは断定できませんが、女の子にしても男の子にしても、往々にしてこういうことが起こるのは、思春期は「友人を大事にする」時期に入っているからです。発達心理学的にも青年期の時期には、仲間づくりが大切になってきます。そういう時期が来ただけのことなのです。
更年期で体調が悪い時には家族に頼りたい、話も聞いてほしいと思うものです。にもかかわらず子どもたちは別世界に行ってしまい、孤独を感じて、より調子が悪くなる、といった経験に遭遇します。
子どもたちが世界に飛び立っていく一方で、自分は調子が悪くなっていって関係性が合わなくなっていくというというのが、更年期の母親と思春期の子どもという組み合わせのリアルな姿ではないかと思います。
何よりも自分が元気になることを心がける

そういう時期に差し掛かったら、まずは自分が元気になることを考えてほしいと思います。自分のセルフケアをしっかりします。
子どもたちとの関わりは、これまでのようにべったりではなく、ご飯をきちんと食べてもらう、洗濯された衣類を提供するなど、「ライフラインを切らないようにして、子どもたちの成長を見守る」という考え方に切り替えていくといいと思います。
また、子どもが中学生になったから仕事を頑張りたいという方もいます。すると、子どもとの時間が減ってしまい、全く様子が分からなくなってしまうケースもあります。つながりを切らさないためには、LINEなどもうまく活用しながら、子どもを大事に思っていることを伝えていくことも大事です。たとえお互いが家の中にいる時でもLINEを使ったっていいと思います。
ご機嫌で話を聴ける態勢を作っておく

思春期の子どもと付き合う時のポイントをまとめてみました。
- 話を聞く
- 相手を理解する
- 話をしたがらないかもしれないが、話を聞くことを大事にする
- 決めつけない、押し付けない
- 親自身がご機嫌でいるようにする(自分がイライラしていると話も聴けません。自分を整える必要があります。『ツキとナミ』のようなメディアを読んでヒントを掴もうとしていることはとてもいいことです)
親がご機嫌でいて、子どもとの対話の窓をいつもオープンにしておくことです。話しかけてくれないこともあると思いますが、そういう時には無理に突っ込んでいかず、待っておきます。話しかけてくれた時には決めつけや押し付けをせずに受け止めてみましょう。
更年期を迎える母は思春期を迎える我が子とどう向き合ったらいいか?を、助産師/チャイルドファミリーコンサルタントのやまがたてるえさんに聞きました。子どものことで悩むと子どものことに目がいきがちで、自分のことは棚上げにしてしまうことが多いのではないでしょうか。まずは自分が元気になることを一番に考えて、というやまがたさんの言葉に、なんだかホッとしました。
取材・執筆
柳田正芳 from 性の健康イニシアチブ/6483works
日本で日本語で「性科学」「性の健康」の普及を目指す性の健康イニシアチブの立上げ人/代表。また、編集/校正業、執筆業、Webメディアディレクション業などを業とするライティングオフィス・6483worksの代表。
HP:https://masayoshiyanagida.tokyo/profile