低用量ピルについて、皆さんはどんなイメージがありますか?低用量ピルは避妊に役立ち、正しく服用すれば1年間で99%以上の避妊効果が期待できます。また、避妊以外にも、生理痛の軽減などの効果があります。
今回は低用量ピルについて、主な種類やメリット・デメリット、副作用や上手な医療機関のかかり方などを産婦人科の柴田綾子先生にお聞きしました。


産婦人科医 柴田綾子先生
2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信を行っている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。

低用量ピルはセルフケアの1つのツール

――そもそも、低用量ピルとはどんな薬なのでしょうか?

低用量ピルは、欧米では半数以上の女性が自分の月経、つまり生理をコントロールするために使っている薬です。たとえばドイツだと、若い世代の約7割が低用量ピルを選択しています。
(参考:THE WORLD BANK Gender Data Portal

女性にとって生理って、10歳ぐらいから50歳ぐらいまで約40年間、毎月付き合うものになるんですよ。生理の時に、吸水型サニタリーショーツや鎮痛薬を使っていても、痛みが強かったり生理の量が多くて生活の質が落ちてしまう方がたくさんいます。そういう方にとって「生理をうまく過ごす」ってものすごく大事なセルフケアになるんですね。そのセルフケアの1つのツールが低用量ピルなんです。

仕組みとしては、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンが入ったピルを毎日1錠ずつ飲みます。いつもは毎月女性ホルモンが大きく変化してるんですが、それらが外から入ってくるので、女性ホルモンの大きな変化が少なくなり卵巣も少しお休みできるんです。

卵巣の中では排卵が毎月起こっているんですが、排卵を休ませることができるし、生理のもとになる子宮内膜が薄くなるんですね。低用量ピルを飲むことで生理痛が軽くなって、子宮内膜が薄いので生理の量も少なくなって、しっかり避妊もできるというメリットがあります。毎月の生理がけっこうしんどくて憂鬱だなという方にはぜひ使ってもらいたいツールです。

  • エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンを含む
  • 毎日1錠ずつ飲むことで
    ・女性ホルモンの変化が少なくなる
    ・排卵を止めて、卵巣を休ませる
    ・子宮内膜を厚くしない などの効果
    →避妊効果・月経トラブルの改善効果が期待

低用量ピルの主な種類:自費の経口避妊薬と保険適用のLEP

――最近は低用量ピルにも、様々な種類が出ていると聞いています。低用量ピルの主な種類には、どういったものがありますか?

日本では少し独特なんですが低用量ピルが2種類に分かれています。1つ目が避妊のために使う自費のピルです。これは経口避妊薬とも呼ばれます。もう1つが生理痛とか生理の量が多いとか、そういう症状を治療するために使う保険診療のピルです。低用量ピルを英語にしたLow dose Estrogen Progestinの略でLEP(レップ)と呼んでいます。

日本の場合は医療システム上、この自費のピルと保険のピルと2種類あります。少しややこしいですよね。

――実際の製品には、どういったものがありますか?期待できる効果はそれぞれで違うのでしょうか?

たとえば避妊用の自費のピルというのは、アンジュとかアンジュとかマーベロン、トリキュラー、ラベルフィーユ、ファボワールなどですね。保険のピルはヤーズやルナベル、フリウェル、ジェミーナと呼ばれているものがあります。

これらは基本的には効果は同じだけれども、日本のルール上では目的別に2種類に分かれています。避妊を目的にしていたら自費になります。もし生理痛などを治したいというのがメインだったら、保険が適用されます。

保険診療のLEPでは長期投与といって、ピルを毎月休薬せずに飲むことができて、生理の回数を1年間に3〜4回に減らすことができたりします。一方でLEPは、避妊の効果が日本国内の臨床研究で調べられていなかったりするので、海外では避妊薬として使われているものでも、日本では「避妊目的に使ってはいけないよ」のような但し書きが付いていたりします。

経口避妊薬とLEPのどちらにするか、またどの製品を使うかは、基本はお医者さんと相談して、決める形になりますね。また、ピルには性感染症予防の効果が無いのも注意が必要です。ピルと一緒にコンドームを使うことで性感染症予防ができます。

低用量ピルの種類

診察の種類服用目的主な製品名
経口避妊薬・OC自由診療(自費・全額負担)避妊アンジュ、マーベロン、トリキュラー、ラベルフィーユ、ファボワールなど
LEP保険診療(3割負担)月経トラブルの治療ヤーズ、ルナベル、フリウェル、ジェミーナなど

低用量ピルは何歳から何歳まで飲んでいい?

――服用目的などによって相談するのがいいのですね。ご自身が生理で悩んでいたり、生理に悩むお子さんをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、低用量ピルは何歳から何歳ぐらいまで飲んでいいのでしょうか?

低用量ピルを開始する年齢は、思春期からでも大丈夫です。初経といって初めての生理が来れば、基本的には問題ないと言われています。日本だと初経が来る平均が12歳で、早い子だと10歳ぐらいから来ます。しっかり生理が始まっていれば低用量ピルは安全に使えます。

年齢が高くなると少し血栓のリスクがあるので、40歳以上の方は注意が必要です。50歳以上の方では低用量ピルは服用しないほうがよいとされています。低用量ピルが使用できない方は、ミレーナなどIUS(子宮内避妊システム)など他の方法を相談する形になります。

低用量ピルにはどんな効果や副作用がある?

――そもそも、低用量ピルにはどんな効果やメリットがあるのでしょうか?

避妊や生理痛の改善というメリットに加えて、自分で生理をコントロールできることがあります。たとえば温泉に行きたいからとか、受験や部活の大会があるから少し生理をずらしたりできるのは、生理を気にせず生活できることにつながりますよね。

あと副効用と言ってメインの効果ではないんですが、ニキビとか肌荒れの改善や月経前症候群(PMS)の症状改善にも効果があると言われています。他にも卵巣がん、大腸がん、子宮体がんの発症を抑制することもわかっています。

――避妊以外にも様々なメリットがあるのですね。逆に、低用量ピルの副作用についてはどうですか?

まれですが、怖い副作用は、血が固まりやすくなって静脈血栓塞栓症が起こることです。症状としては、急に目が見えにくくなったり喋りにくくなったり、激しい頭痛や腹痛、下肢のむくみや痛みなどが出ます。低用量ピルの服用中に、これらの症状が出た場合は、必ず医師や病院に相談してください。早めに診断を受けて治療すると、重症化しないことが分かっています。

静脈血栓塞栓症は低用量ピルを飲み始めてから3カ月以内が多く、肥満や喫煙している方、高齢の女性だとリスクが上がるので、注意が必要です。

低用量ピルを飲み始めると、少し吐き気や頭痛やむくみが出たり、不正出血がでることがあります。これらのマイナートラブルは大半の場合最初の3ヵ月ほどでおさまることが多く、飲み続けていくうちに改善することもよくあります。

また、5年くらい長期で使用すると、乳癌や子宮頸癌のリスクが少しだけ上がるというのもあります。ただ、よく心配されているような、低用量ピルが原因で太ったり、不妊になったりというリスクはありません。

低用量ピルが広まってこなかった理由

――血栓症には注意が必要ですが、それ以外のマイナートラブルは一時的なものが多いということですね。低用量ピルってここ最近は認知度が上がってきつつあると思います。ですが欧米だと5割ぐらいの方が使っている一般的な薬にもかかわらず、今まで日本でなぜあまり浸透してこなかったんでしょうか?

1つはやはり値段が高い。日本だとたとえば自費のピルだと月に2、3000円ぐらいかかって、保険が効くLEPで一番安いものでも1000円ぐらい。保険適用のピルだと2〜3ヵ月に1度、産婦人科に通院する必要があり、受診料としてお金がかかります。となると経済的な状況によっては、毎月低用量ピルにお金を出すのは難しいこともありますよね。

たとえば海外だと、思春期の女性や貧困層の方に対しては低用量ピルはほぼ無料になるなど、政策的に援助している国も多いんですが、日本はそういうのがないんですよ。

もう1つは、産婦人科など医師の処方箋がないと買えないということ。たとえば韓国など、低用量ピルを薬局で処方箋なしで買える国もあります。日本ではピルは医者が処方しないといけない薬になっています。産婦人科の受診へのハードルが高いと感じられていることもあるかもしれません。

低用量ピルの入手の選択肢

ーーお金の面や、産婦人科への受診がハードルとなって低用量ピルの服用がしづらいという人もいるのですね。

最近はオンライン診療のサービスが増えてきて、産婦人科に行かなくてもオンラインで買えるということで、少しずつ広がってきていることもあると感じています。低用量ピルの処方には内診や血液検査は必ず必要ではなく、問診と血圧測定で処方できる薬です。内科など産婦人科以外の診療科でピルを処方しているところもあります。

一方で、産婦人科ではエコー検査をして、生理トラブルの原因になっている子宮内膜症や子宮筋腫などの病気の有無をチェックすることができます。ご自身の状況を知る手段としてうまく活用していただけたらと思います。

最近は保険のピルが安くなってきて、金銭的にはアクセスしやすくなってきています。生理の症状で困っていたらぜひ産婦人科に相談してください。参考サイトもぜひ覗いてみてくださいね。


ライタープロフィール
きのコ
群馬を中心に多拠点生活をする文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療や子宮筋腫による月経困難症をきっかけに、生理との向き合い方に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。

この記事を書いた人

ツキとナミ運営事務局

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