生理前や生理中の食欲の増加に悩む女性は多いものです。今回はその原因や対処法について、産婦人科医の柴田綾子先生に伺いました。
ホルモンバランスや栄養不足が関与するこの問題に対して、どのような対処法が有効なのでしょうか。


産婦人科医 柴田綾子先生

2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信をおこなっている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。

生理前や生理中の食欲の増加の原因

ーー生理前や生理中の食欲の増加についてお伺いします。まず、原因を教えていただけますか?

生理前の食欲増加が強い場合は、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)の可能性があると思います。その原因としては、生理前に分泌が増える黄体ホルモンであるプロゲステロンの影響が考えられますね。また、月経中の食欲増加も、生理の初めの方やプロゲステロンが多い時期に見られることがあります。

それ以外にも、貧血のような症状が関連している可能性もありますね。出血の量が多いと貧血の症状が出ることがあります。

ーーつまり生理中に食欲が増すのは、ホルモンの変化や貧血による鉄欠乏の影響ということでしょうか。

その通りです。さらに、鉄分不足の場合、氷を食べたくなる症状も出やすいと言われています。

例えば、生理の時に氷やアイスクリームなどを食べたいという欲求が起こるのは、鉄分不足の兆候かもしれません。

ーーでは、食欲増加とホルモンについては、どのような関係があるのでしょうか。

これについてはよく分かっていませんが、プロゲステロンは体内で水分や栄養を蓄える作用があると言われています。そのため、プロゲステロンが増えると、月経や妊娠に備えて体内にエネルギーや水分が蓄えられ、食欲増加の症状が現れる可能性が考えられます。

生理前や生理中の食欲の増加対処法

ーー食欲増加の対処法についてはどうでしょうか?

生理前のプロゲステロンが増える時期には、体重が増えやすい傾向があります。アスリートの方も同様で、この時期に無理に減量したり体重を気にするのはストレスになるため、減量のタイミングとしては避けられるようです。

ストレスによりPMSが悪化して悪循環になりがちなので、まずはストレスをためないようにすることが重要ですね。また、過度な食欲増加がある場合は、PMSとして治療することをおすすめします。

薬局で買えるサプリメントとして、チェストベリーやカルシウム、ビタミンB、鉄分といった成分を含むものがおすすめです。これらを含む食事を心がけることも大切でしょう。

さらに、ホルモンバランスを整えるという視点で、低用量ピルなどの選択肢も考えられますね。

ーー時期的にそのような変化があることを受け入れることも大切ですね。

そうですね。時期的にプロゲステロンが増える時期で、むくみや食欲増加が生理的な反応として一時的に現れることがあります。そのため、無理せず自然な範囲で過ごすことが重要ですね。

ーーダイエットに最適な時期はあるんでしょうか。
生理後から次の排卵までの期間は、むくみが少なく、食欲をコントロールしやすい時期と言われています。なので、生理の終わり頃からダイエットを始めるのが良いでしょう。

健康的なダイエットのためには?

ーーおすすめできないダイエット法はありますか?

そうですね。ダイエットというと、食事の量を急激に減らしたり、朝食を抜いたりする人がいます。

また、特定の食べ物だけを食べるという偏食も若い人によく見られますが、これでは体の代謝が落ちてしまい、逆にダイエット効果が得られにくくなります。

ーー食事制限だけでは身体が省エネモードになるんですね。

その通りです。さらに、BMIを低くしすぎると生理が不規則になることがあります。生理が止まる場合もあるんですよ。

その結果、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌が減少し、骨がもろくなる可能性があります。この状態が続くと、若い人でも骨粗しょう症になって骨折しやすくなることもあります。ですので、食事制限はしすぎない方が良いでしょう。

ーーでは、どのようなダイエット法が良いのでしょうか?

インナーマッスルを鍛える運動や、姿勢を整えるトレーニングを取り入れましょう。

例えば、通勤時に座らずに立ったり、エレベーターを使わずに階段を使ったりするなど、日常生活での運動量を増やして、筋肉をつけながら健康的に痩せることを目指す方が長期的には効果があります。

食事制限だけではなく、運動を取り入れることでリバウンドしにくくなります。

ーーでも、たまにカロリーの高いものが食べたくなることもありますよね。そういった時におすすめの食べ方はありますか?

飲み会などでよくあることですよね。最初に低カロリーのサラダを食べてから、高カロリーなものを食べると良いでしょう。また、女性は便秘になりやすいので、食物繊維を多く摂取したり、水分を多く摂取したりすることも重要です。

新しい環境ではトイレに行きづらいこともあるかもしれませんが、便秘対策は重要ですね。

ーー生理前のPMSの時に、特定の食べ物が食べたくなることもよくあります。その時に、思うままに食べるべきか、通常通りの量に抑えるべきか、どちらがおすすめですか?

PMSの症状の中でも精神的な症状が強く現れる場合は、PMDD(月経前不快気分障害)と診断されます。食欲の激しい変化や特定の食べ物への欲求、睡眠障害などがその一例です。基本的には、食べたいものを過剰に摂取するよりは、適度に制限した方が良いと考えています。

ただし、生活に支障が出るほどの症状がある場合は、低用量ピルでホルモンバランスを整えることや、SSRIといった気分の落ち込みやイライラを和らげる抗精神薬を使った治療が検討されます。

生理前の食欲増加は一般的な現象ですが、食べ過ぎには注意が必要です。生活に大きな影響が出る場合は、産婦人科や心療内科、精神科などで相談することが重要でしょう。


生理前や生理中の食欲の増加は、月経前症候群や貧血などさまざまな要因が考えられます。過度な食欲増加に対してはストレスをためないことが重要。栄養補給や運動を取り入れて、バランス良く対応していきましょう。

また、PMSやPMDDが疑われ、日常生活に支障がある場合は医師への相談や治療を検討してみるのも一つです。生理前の食欲増加に悩んだら、適切なケアを受けることで快適に過ごせるよう心がけてみてくださいね。

〇ライタープロフィール

きのコ
東京を中心に多拠点生活する文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療の経験や、子宮筋腫による月経困難症からの子宮全摘出をきっかけに、女性の身体と健康に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。

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