生理前のイライラ、原因と対処法は?
生理前になると、イライラや感情の乱れに悩む方も多いと思います。
今回は生理前のイライラへのさまざまな対処法や、効果が期待できる薬について、産婦人科医の柴田綾子先生にお聞きしました。イライラが他の疾患のサインかもしれない場合や、婦人科受診の重要性についても触れています。
産婦人科医 柴田綾子先生
2011年医学部卒業。妊婦健診や婦人科外来のかたわら女性の健康に関する情報発信をおこなっている。著書に『女性診療エッセンス100』(日本医事新報社)など。
生理前のイライラの原因と対処法。効果のある薬は?
ーー生理前のイライラの原因と対処法について教えていただけますか?
生理前のイライラはPMS(月経前症候群)の症状として多くの女性が経験しています。
その原因の1つとして、生理前に分泌が増えるプロゲステロン(黄体ホルモン)の影響が考えられますね。生理の初めの方もプロゲステロンの分泌が多かったり、月経困難症の症状として生理中にイライラしたり、情緒不安定になったりすることもあります。
まず、日常生活でできることとして、リラックスできるように、スケジュールを緩めて休む時間を意識しましょう。ストレスがPMSを悪化させることがあるので、とくに生理前の時期には十分な睡眠や休息をとることが大切です。
ーー症状を改善する薬の選択肢はありますか?
PMSは産婦人科や婦人科などで相談ができます。
低用量ピルを使用することで、ホルモンの波を抑えることにつながりますね。月経が重いなどの悩みがあれば、月経困難症の治療薬として低用量ピルを使うことで、PMS症状の改善も期待できます。
休薬せず服用できる連続投与のピルは、生理前の症状が強い方や生理の回数を減らしたい方に適していると言われていますね。この方法では、2〜3か月に1回しか生理を起こさないように連続投与することで、体に負担をかけずに休薬期間中の症状が緩和されるため、生活が楽になると思います。
漢方では、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)に加えて、抑肝散(よくかんさん)という漢方がよく使われますね。これは生理前のイライラや感情の爆発を抑えるのに効果的で、生理前の10日間に1日2~3回飲むことをおすすめします。また、イライラが高まった時にも使用できますね。
ただ、抑肝散をはじめ漢方の効果の出方は個人によって異なるので、相性が大事です。
そして感情のコントロールが難しい場合には、SSRIといわれる抗精神薬を使用することもありますね。
ーー積極的に摂った方がいい栄養素はありますか?
栄養素としては、ビタミンB6やカルシウム、鉄分が重要です。お肉や温野菜、サラダ、そして乳製品を意識して摂取すると良いでしょう。薬局で手に入るサプリメントとして、チェストベリーの成分にはPMSの症状を和らげる効果があるとされています。
PMSと思ったら別の病気の場合も。婦人科等の受診が大切
ーーただ、PMSだと思っていた症状が実は別の病気のサインだったりすることもあるんでしょうか?
そうですね。まず、貧血です。生理の時に体調が悪くなるのは、実は貧血のせいかもしれません。
そして、甲状腺の異常もよく見られます。例えば、甲状腺ホルモンが低い場合には、橋本病という疾患が考えられるんです。橋本病では、倦怠感やむくみ、便秘などの症状がPMSと勘違いされることがあります。
また、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される場合や副腎疾患がある場合には、手の震えや過食などの症状が生じることもありますね。イライラの原因がバセドウ病だったりすることもあります。
PMSかなと思ったら婦人科に相談するのが一番ですが、産婦人科に行きにくいと感じる場合は、まずはお近くの内科などに相談でもいいと思います。
特に精神的な症状が強い場合、PMDD(月経前不快気分障害)の可能性があります。例えばイライラや過食、眠気が強く、仕事や生活に支障がでるほどであれば、精神科や心療診療内科の専門家に相談した方が、症状にあった治療が受けられると思います。
ーーPMSは症状が出ている時に受診するのがいいのでしょうか?
症状があればすぐに分かりますが、生理が終わった後でも症状の記録を残してもらえれば問題ありません。
大体2、3周期ほど月経周期と症状の記録をつけていただければ、症状がおさまっていても対応できます。
ーー精神科や心療内科で処方される薬を使うことに抵抗を感じられる人もいるのでは…と思いますが、いかがでしょうか?
そうですね。でも、PMSやPMDDの影響で感情をコントロールできない場合は、症状が強まる時期に一時的にSSRIといったお薬を使うことで症状が軽減され、快適に過ごせることが分かっています。SSRIは”選択的セロトニン再取り込み阻害薬”で、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの不足を抑え、イライラを抑える効果があります。
特にしんどい場合はこのような精神科のお薬が有効ですが、受診しにくい場合は、産婦人科でも漢方など症状や体質にあった選択肢があり、さまざまな相談ができますよ。気軽に来ていただけると嬉しいです。
ーー自分に合った治療法を選べると良いですね。
日本でも女性の健康に関連する経済的な課題が最近ようやく認識されてきたので、これから状況が改善されることを期待しています。PMSや月経不順が仕事のパフォーマンスの低下につながることがあり、更年期障害も経済的な損失が大きいと言われています。そういった女性の健康について、治療法や受診・相談しやすい場がもっと増えればいいなと思いますね。
ーーそうですね。心配なことがあればいつでも受診や相談ができる場があるということが大切だと思います。
生理の症状は他人と比べるのが難しく、我慢して過ごしている人も多いですし、学校など義務教育ではこのようなことを学べないのが現状です。だからこそ生理に関する症状や不調がある場合は、早めに産婦人科を受診することが重要ですね。
引っ越しなどで新しい環境になると、産婦人科はどこに行けばいいか分からない…という人も多いと思います。産婦人科のWebサイトで、PMSなどの診療がおこなわれているかや低用量ピルを処方しているかを確認するのが1つの手段ですね。
また、産婦人科の受診に抵抗がある人もいますが、予約時や問診票で内診を希望しない旨を伝えることもできます。一度勇気をもって受診してみることをおすすめしますね。
PMSやPMDDなどを含む生理前のイライラや不調の原因と対処法について、柴田綾子先生に解説していただきました。リラックスや休息、適切な栄養の摂取に気をつけると共に、漢方や低用量ピルなどの薬も症状緩和の効果が期待できます。
一方で、PMSと思われる症状が実は他の疾患のサインということもあります。そのため、不調を感じたら早めに産婦人科や精神科などの専門家に相談し、適切な治療を受けることを意識してみてくださいね。
〇ライタープロフィール
きのコ
東京を中心に多拠点生活する文筆家・編集者。すべての関係者の合意のもとで複数のパートナーと同時に交際する「ポリアモリー」として、恋愛やセックス、パートナーシップ、コミュニケーション等をテーマに発信している。不妊治療の経験や、子宮筋腫による月経困難症からの子宮全摘出をきっかけに、女性の身体と健康に興味をもつようになった。子無しでバツイチ。著書に『わたし、恋人が2人います。〜ポリアモリーという生き方〜』。